春になるとコンビニにさくら味のお菓子が立ち並ぶ。ピンクのパッケージが春の訪れを感じさせる。ついつい季節感に誘われて、さくら味に手を伸ばす人もいるのではないだろうか。しかし、毎年のように世に出回るこの味は、正体や人気の理由に謎が多い。さくら味について探るべく、お菓子研究家の松林千宏さんに話を聞いた。

お菓子研究家の松林千宏さん

さくら味の誕生は2‌0‌0‌0年代から始まるお菓子やスイーツの多様化にある。コンビニスイーツの味が多様化し、毎週百種もの品が入れ替わるコンビニで生き残るために、作り手たちは新しい物好きな日本人に合わせて様々な味のお菓子を開発していったのだ。抹茶やきな粉といった和菓子の味もお菓子のバリエーションに取り入れた。そのうちの一つがさくら味なのである。

食品業界に「千三つ」という言葉がある。1‌0‌0‌0品目を世に出しても残るのは3品目、という意味だ。そんな厳しい世界でさくら味は生き残り、今やイチゴ味と並んで春を代表するフレーバーとなっている。さくら味はなぜヒットしたのだろうか。

さくら味のお菓子はその見た目で大衆の心を掴んだ。何といっても愛らしいピンク色の見た目が若い女性の心に訴える。そして、SNSが生活に密着している今、ピンク色のスイーツはSNS映えするため、特に人気が高くなっている。近年はSNSと商品の相性がその商品の売り上げに大きな影響を及ぼしており、作り手側もSNS映えを意識して商品を開発することが多い。例えば、とある女性向けのスナック菓子のパッケージは、スマートフォンで写真を撮った時に反射して光らないよう、特殊な材質を採用している。写真映えするさくら味のスイーツはこのような時代において需要が高い。

我々がさくら味だと思っているものの正体は何であろうか。さくら味の正体は、桜の葉に含まれるクマリンという成分を加水分解した時に生じる匂いと味である。これは桜の葉の塩漬け、つまり桜餅の葉の匂い・味と同等だ。

「小さい頃から食べているものは大きくなっても美味しいと思える」と松林さんは言う。さくら味の食品は幼い頃から桜餅を食べている日本人にその味と匂いを思い出させるのだ。さくら味は日本人にしか受けず、外国人からの人気は低い。それは、桜餅の味に慣れ親しんでいない人にとって、さくら味は未知の味であるからだ。さくら味は、日本の文化に根付いた日本人のためのフレーバーなのだ。

さらに、さくら味の商品が期間限定であることが、はかなく散ってしまう桜と重なる。春という新生活が始まるこの季節、誰でも忘れられない思い出があるだろう。さくら味は桜そのもののはかなさと、桜が散るとともに終わってしまう春の思い出を蘇らせるのだ。

(長岡真紘)