地元の楽士が奏でる、伝統ある神秘的なメロディーが高らかに鳴り響き、会場を支配した。群衆の中央から煙が立ち上り、月は一層の輝きを放ってその奥を鈍色に照らし出す。血が騒ぎ出し、人垣を押し分けると、そこには見たことのない光景が広がっていた。七人の男たちが、オランダによる植民地化以前に人々が着ていたと思われる装いに身を包み、輪を崩すことなく同じ動きで踊っている。それぞれが竹製の馬を脚の間に挟んでいるようだ。

言葉もなく、時間を忘れて立ち尽くしていた。このパフォーマンスがまだ終わりには程遠いという強い予感があった。男たちがやがて輪を崩した時には、わずか1分ほどと思わせて実に30分もの時間が経っていた。彼らの目はどこかうつろで、顔には冷笑が浮かび、動きは奇怪だが今にも爆発しそうな勢いがある。突如、ダンサーの背後で別の男が汚れた大きな袋を取り出した。彼はその中から割れたガラスの破片をすくい上げ、人の身長ほどの長さになるまで直線上に敷きつめた。するとダンサーたちは、野猿のように興奮気味にその周りを飛び跳ね始めた。一人ずつ、ガラス片の上を素足で、苦痛の表情一つ見せず進んでいく。ある者はその上を転がり、またある者は大きな破片を小さく噛み砕きながら。その夜、男たちはガラスに血痕一つ残すことなく去っていった。これが、私が初めて目撃したクダ・ルンピンのパフォーマンスだった。

ジャワ[note]インドネシアを構成する火山島。スマトラとバリの中間に位置する[/note] の伝統舞踊、クダ・ルンピンは、軍馬にまたがる中世騎兵の姿を描く。ペンキで色付けられ、刺繍に飾られた竹の仔馬を軍馬に見立て、単に行軍の様子を見せることもあれば、隊列を崩して離れ業で魅了することもある。離れ業というのは、例えばガラスを食べたり、鞭打ちや切りつけの痛みに耐えたりすることである。クダ・ルンピンの踊りは、オランダからやって来た侵略者に抵抗したジャワのヒーロー、ディポヌゴロの戦いを再現したパフォーマンスだとも言われている。

この舞は、一種の通過儀礼のような盛大で重要なイベントに際して披露される。アンクルン[note]ジャワの伝統的な竹製楽器。筒を揺らしてぶつけ合うことで音を鳴らす[/note] やガムラン[note]インドネシアと周辺諸国の民族音楽、またその演奏に用いられる楽器の総称。竹や鉄の鍵盤を打つ音が特徴的[/note] などの、インドネシアの民族楽器による演奏とセットになっていることが多い。個人的に最も惹かれるのは、男たちが忘我の境地に達し、人間離れした技を見せるその様だ。クダ・ルンピンを舞う間、ダンサーの肉体は一種の「器」として魂によって満たされ、憑依される。魂に突き動かされるからこそ、ガラス片を噛み砕き、その上で踊ることさえできるのである。

 

(文:マルセル・ベイト、訳:広瀬航太郎)