読者諸君は、国語辞典を持っているだろうか。10年以上前に購入したものがあるが、今は家でホコリを被っている、という人もいるかもしれない。
 
「国語辞典は、ことばの意味が分からないときに引くもの」「ことばの意味は大して変わらないから、国語辞典はどれを引いてもどうせ同じ」。そんな考えを吹き飛ばす、国語辞典の新たな見方を提唱する人がいる。芸人、サンキュータツオさんだ。
 
「売れている国語辞典には必ず特徴がある、意味の書き方も全く違う」。民間の出版物である国語辞典は、ユーザーの多様なニーズに合わせ、他社と競合できる武器を持っているのだという。
 
ここに大きく関わるのがその辞書の「編集方針」である。どの語を収録するか、例えば「新語を積極的に載せる」「固有名詞を載せる」といったことから、語の説明に言葉を尽くしてニュアンスまで汲み取るか、それともあくまでもシンプルな説明に徹するか、ということまで、一冊が一つの編集方針に貫かれている。そこにそれぞれの国語辞典の「個性」が現れる。
 
著書『学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方』の中で、タツオさんは主な小型国語辞典を「擬人化」し、イラストとともに紹介している。
 
この性格付けがなかなか秀逸である。「都会派インテリメガネの岩国くん」「ワイルドな人気者、新明解くん」「着物が似合う名家の息子、角川くん」。個性豊かな男性キャラクターの面々を見比べると、国語辞典がこんなにも多様な性質を持っていることに改めて驚かされる。
 
タツオさんが提案するのは「国語辞典を用途に合わせて選ぶ」ということだ。レポートを書く機会の多い大学生には「書くとき用」の辞典を手に取ることを勧める。また、微妙なニュアンスや類語の意味の違いを知るには「読む用」の辞典も必要だという。「2冊以上国語辞典を持っているのが二十歳以上の大人のたしなみかな」と語る。
 
国語辞典の楽しみ方の一つは、「複数の国語辞典で、同じ言葉を引き比べること」だという。国語辞典の記述は、「ことばをことばで説明する」ことを突き詰め、人間が知恵を絞って書いた文章だ。あなたは「右」をどう説明するだろうか。日常的な語ほど、難しい。タツオさんは「そういう記述から人間の格闘の跡を見たい」と言う。引き比べによってそれが鮮明になる。
 
タツオさんは、最新版の国語辞典を手元に置くことの必要性も語っている。約10年に一度、版を改める度に内容が更新され、意味の変化に対応しているのだ。
 
収録語の選び方や語の説明に最新の学説やことばへの考え方が反映され、印刷、製本技術の粋が一冊に詰まった国語辞典。これを「一つの工芸品」と言うタツオさんは、「たかだか3000円、CD1枚くらいの金額で買えるのは奇跡としか言いようがない」と熱く語る。
 
最後に、読者に国語辞典で何を引いてほしいかを、タツオさんに聞いてみた。「お手持ちの辞典の『恋愛』の項目を引いてみてください。オススメは明鏡国語辞典です」
(青木理佳)