血管障害の治療・臓器再生などに期待

ETV2はヒト皮膚線維芽細胞内のFOXC2と共役して 血管内皮細胞遺伝子の発現を誘導する。 (提供:慶應義塾大学)
ETV2はヒト皮膚線維芽細胞内のFOXC2と共役して
血管内皮細胞遺伝子の発現を誘導する。
(提供:慶應義塾大学)
慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室の森田林平専任講師をはじめとする研究グループが、たった一つの遺伝子ETV2の導入により、ヒト皮膚線維芽細胞を血管内皮細胞へ直接転換することに成功した。

研究成果は生活習慣病等に対する血管新生療法や臓器再生のための安全な血管内皮細胞の開発につながることが期待される。

これまでもヒト皮膚線維芽細胞を血管内皮細胞へ転換することが報告されてきたものの、複数の転[写因子あるいは特殊な細胞を必要としていた。本研究は誰からでも採取できる皮膚線維芽細胞を用い、かつひとつの遺伝子のみで転換を可能にした点で安全性・効率性の向上を達成した。

しかし、臨床応用の段階につなげるためには課題も残されている。今回はレンチウイルスベクターにより遺伝子を導入したが、このベクターは染色体を傷つけがんを誘発する危険性を有する。このためレンチウイルスベクター以外のベクターを用いて血管内皮細胞を誘導できるか否か調べる必要がある。

さらに、今回人工的に作成された血管内皮細胞のうちの一部は、遺伝子ETV2の発現をなくすと血管内皮細胞からヒト皮膚線維芽細胞に戻ることが明らかになっている。今後は、皮膚線維芽細胞に戻る細胞集団とそうでないものの違いを生むメカニズムを明らかにし、安定した血管内皮細胞を作成できる培養システムの構築を目指す。

今後の再生医療について森田講師は、「今の日本は再生医療を一つの柱として力を入れているので、全体として盛んになっていく」と再生医療の更なる発展の可能性を示した。

【用語解説】
・血管内皮細胞…血管の内表面を構成する細胞で、障害を受けると剥離し血栓ができる。
・転写因子…遺伝子の発現を調整するタンパク質。特定の塩基配列のDNAに結合することで特定の遺伝子の発現を調整する。
・線維芽細胞…全身の結合組織を構成する細胞で、皮膚ではコラーゲンなどをつくり皮膚の機能を維持する働きをもつ。
・ETV2…転写因子のひとつ。血管と血液の初期形成に必須の分子とされる。
・ベクター…宿主の細胞内に遺伝子を発現させるための分子であり、遺伝子操作で用いられる。
・発現…遺伝子上の遺伝情報が産物として現れること。