声の登録作業を体験する学生たち
声の登録作業を体験する学生たち

より利用を身近に

三田キャンパスで先月25日、「第2回慶應マイボイスワークショップ」が開かれた。マイボイスとは、将来、発声が不可能となる難病を持つ患者が、予め自分の声を録音して残し、声を失った後も自分の声による会話ができるようにするためのフリーソフトウェアだ。Hearty Ladderというキーボード状の入力ソフトを使い、文章を入力すると、声が再生される仕組みだ。

言語文化研究所の川原繁人氏の主催のもと、開発・改良に携わる吉村隆樹氏や都立神経病院の本間武蔵氏らを講師に迎え、医療従事者やマイボイス利用者、学生などが参加した。

マイボイスの作成には2段階がある。まず、自分の声を50音・濁音・拗音を含む全124音にわけて行ごとに録音する作業だ。次に、録音した音声をパソコン上で一音ずつ切り取る登録作業をする。今回はマイボイスを作成できる人を増やすことを目的に、すでに録音されたサンプルの音声を使って音の登録作業を行った。参加者は自らのパソコンを持参し、マニュアルに沿って難なく作業を終えた。

音の登録自体は初心者でも一時間程度で終わる簡単な作業である。だが、「作れる人が少ないのが問題点だ」と川原氏は指摘する。

良い音質で音を録音するためには録音機材や防音設備が整っている場所で録音をする必要がある。そのため現状では都立神経病院の本間氏の立ち会いのもとでしかマイボイスが作成されていない。録音作業を身近で手軽なものにすること、マイボイスの認知度を高めていくことが今後の課題になる。現在、その試みの一環として、慶大の理工学部生によって場所を選ばず録音ができるアプリケーションの開発も行われている。

参加者の一人で利用者でもある酒井惠子さんは、「伝えることは生きる意味。マイボイスを使うことは、自分が生きた証だ」と述べた。患者の声を残したいという思いから生まれたマイボイスは、患者に生き甲斐を与えている。

「将来的には誰にでも簡単に作成できるようになるとよい。今後も慶應でワークショップを続けていきたい」と川原氏は語った。