取引所「マウントゴックス」の経営破綻で一躍名が知れ渡ったビットコイン。しかし、名前だけは知っているものの、どのようなものかというのは非常につかみづらい。ビットコインはどんな仕組みか。そしてどんなメリット、デメリットがあるのか。ビットコインに詳しい慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)の斉藤賢爾氏に話を聞いた。

2014年の2月に破綻したマウントゴックス。「原理的に経営破綻はビットコインに何の悪影響も与えていない」と斉藤氏は話す。マウントゴックスはビットコインの売買を仲介する機関の一つで、銀行の外貨両替所に近い。外貨両替所の一つが破綻しても日本円のシステムに支障がないのと同様に、取引所がなくなってもビットコインのシステムそのものには何の影響もない。むしろ時間の経過とともに知名度だけが残った。

ビットコインはP2Pネットワークを使った通貨だ。単位はビットコイン(BTC)で表され、1BTCは約5万4千円(2014年8月22日現在)。コインは約10分間に25BTCの割合で発行され、4年ごとにこのペースは半減する。最大でも2100万BTCまでしか発行されず、現在までに約1300万BTCが発行された。新しく発行されたビットコインは、行われた売買が適正であると証明する演算の答えを見つけた最初の一人に与えられる。この計算自体はマイニングと呼ばれ、計算を行う人をマイナーと呼ぶ。

ビットコイン利用のメリットで特に注目すべきは、国際送金だ。ビットコインの手数料は額ではなくデータ量で決まるため、まとまった金額の取引ほど手数料はかからない。例えば、日本から海外に10万円を送る際、現金なら日本の銀行で約5000円、海外の銀行で約10~30ドル、合わせて約6000円から9000円ほどの手数料がかかる。一方、ビットコインでの取引の場合、10万円にあたる1.67BTCでは手数料がほとんどかからない。

また、「選択肢が沢山あること自体は良いことだ」と斉藤氏は言う。日本円が使えなくなった時、代わりがあるのに越したことはない。事実、キプロスで預金封鎖が行われた時には、資産をビットコインに移す動きが見られた。

「ビットコインは当初の目的からいえば、失敗作だ」

確かにメリットもあるビットコインだが、問題点も多いと斉藤氏は指摘する。

ビットコインはもともと、二者間の金銭取引を金融機関などの第三者が仲介する既存の通貨システムに対し、第三者を挟まず二者が直接取引する通貨として作られた。しかし、実際にはビットコインにおいてもマイナーという第三者が存在する。この点において、斉藤氏は「当初の目的からいえば失敗作だ」と語る。

現状、マイニングには非常に高い計算能力を持ったパソコンが必要とされるため、マイニングを行えるのはわずかな人に限られてしまう。この側面も失敗の一つと言える。

また、日本政府はビットコインを課税対象とする方針をとるが、実際に税務当局が取引を把握するのは難しい。脱税の手段としてビットコインが利用される可能性もある。他にも、通信規約などを決める運営団体が十分に透明で開かれた運営をしているとは言いがたい状況にあったり、ビットコインも現行の通貨と同様に、世界のどこかで起きた変化が全く関係のない国の経済状況を危うくする可能性を含んでいたりするなど、問題点が多い。

ビットコインから考える未来のお金のかたち コミュニティーに根ざした通貨の有用性

欠点も多くあるビットコインだが、通貨の新しいあり方を示したのもまた事実だ。今後の通貨のあり方として、斉藤氏は「世界の一部で起こった変化が全く関係のない他国の経済状況を悪化させる時代だからこそ、世界に通用する通貨でなく、コミュニティーに根ざした通貨が作られる必要がある」と語る。

通貨は使う人と受け取る人がいれば、形が何であれ成り立つ。例えば、西千葉の商店街で流通する地域通貨「ピーナッツ」も立派な通貨だ。個人であれば千葉県民でなくても使うことができる。「地域通貨ピーナッツ」で決済する際には、必ず店の人と握手をして「アミーゴ」と言わなければならない。こうすることで様々なサービスを受けることができる。実際、こうした地域通貨の普及は相互扶助や住み良い街作り、地域経済活性化といった動きを起こすことにもつながっている。現代であれば、地域通貨を技術的にデジタルで作ることが十分可能であるし、研究者などによって既に作られているという。

一方、地域通貨以外のものに対し、斉藤氏は「グローバルな通貨はあまり信用すべきでない。それぞれのコミュニティー内で使われる通貨が今後増えていくと良い」と述べた。 (佐久間玲奈)