《世界に挑む塾生》鉄路で北朝鮮へ マスゲームや板門店を自分の眼で

世界に挑む塾生

(中)園生悠太さん(経1) ※本人の許可を得て掲載

「北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)」と聞いて何を思い浮かべるか。金正恩朝鮮労働党委員長や、核開発、一糸乱れぬ軍事パレード、情報統制下の朝鮮中央テレビなどだろうか。実際の人々の暮らしなど、謎に包まれた部分も多く、隣国でありながら遠く感じてしまう。

我々は、北朝鮮について新聞やテレビなどで情報を得ている。しかしそれらは国を表象するごく一部でしかない。「自分の目で北朝鮮を見たい」。塾生の園生悠太さん(経1)は昨年の9月、北朝鮮の首都・平壌に3泊4日で訪れた。園生さんが見た、日本では知られていない北朝鮮の実情を聞いた。

(構成=山本啓太)

「常にフェアでありたい」 北朝鮮に行くことを決めた理由

慶大入学後初めての夏休みに、北京へ語学留学しました。そこで在日朝鮮人の女性に出会いました。

彼女と話してまず驚かされたのは、歴史についてとてもよく知っているということです。歴史についての知識は、日本で差別を受けていた彼女を助ける唯一の手段だったのです。

そして彼女は高校生の時に日本で受けた差別を赤裸々に話してくれました。「日本はとても過ごしづらい」。日本にずっと住んでいて理解しているのにも関わらず、日本について悪い印象を持った人に初めて出会い、衝撃を受けました。

私は常にフェアでありたいと考えています。それと同時に、弱い立場の人に寄り添うには、自分がその場所へ行き現実を知る必要があります。私は高校2年生のときタンザニアにボランティアに行きました。アフリカを初めて訪れたのですが、日本にいるだけでは得られない情報や、実際に行くことで感じられるものに気づきました。

北朝鮮も、日本から近いのにも関わらず、アフリカと同様何があるか全然知らない。ひょっとしたら偏見があるかもしれない。

外務省から渡航の自粛が呼びかけられている北朝鮮に行くことは、日本人として非常識な行動かもしれません。しかし私は北朝鮮に行くことを決意したのです。

鉄路で北朝鮮に入国 入国審査でまさかのトラブル

最終目的地である平壌以外の北朝鮮の風景を見るため、飛行機ではなく鉄道で入国しました。中国北東部にある国境の街・丹東から平壌行きの鉄道に乗り込みました。

鉄道から見た北朝鮮の景色は、中国の田舎と余り変わらないものでした。しかしあばら骨が露出した牛が野放しにされていたり、食堂車で出てきたゆで卵の黄身が真っ白だったりして、動物たちは栄養失調かもしれないと思いました。

途中駅では北朝鮮軍による入国審査がありました。全ての荷物を確認するため時間がかかり、軍人たちは苛立っています。

いよいよ私の番。寝床の3段ベッドの最上部から荷物を下ろした際、靴も一緒に落ちてしまいました。その靴は軍人の顔、さらには左胸に付けていた金日成の肖像バッジにまで当たってしまいました。私はすぐに謝りましたが、軍人は怒り狂っています。何度謝っても機嫌が直らず、乱暴に荷物チェックを始めます。無事に帰れないかもしれない。そんな不安がよぎる中、荷物チェックが終了。すると、青ざめている私に対し、突然軍人は満面の笑みを見せ、肩を叩きました。怯えている私をただからかっていただけのようです。ユーモアのある人もいるんだな――北朝鮮に住む人との初めての出会いでした。

想像以上に立派な街・平壌 「?」が浮かぶことも

半日近くかけて電車は無事平壌に到着。駅で政府公認のガイドと合流しました。北朝鮮で観光するには政府公認のガイドが同行することが必須だからです。

平壌は意外にも発展していました。宿泊したホテルは日本にあるものと遜色がないほど綺麗でしたし、市民憩いの場として、立派な動物園やプール施設までありました。

一方で、ホテルのエレベーターのドア上部から粉がばらばらと落ちてきたり、完全にエレベーターが停止していないのにドアが開き始めたりするなど、外見に中身が伴っていないとも感じました。

歴史認識でも当然日本と北朝鮮では差がありました。平壌で売られていた歴史の本を読むと、世界四大文明ではなく、世界五大文明として北朝鮮の大同江文明が加えられていました。

ガイドは日本語がぺらぺら。そのうえ日本へ行ったことがないにも関わらず、東京ディズニーランドのパレードについてなど、私でさえ知らない日本のあらゆることを知っていました。

朝鮮戦争から経済制裁まで、あらゆることを日付単位で記憶していることには驚きました。

南北境界線の町・板門店 国境警備の軍人は韓国、アメリカをどのように思っているのか

南北の国境に北朝鮮側から行くことができるのは年に2回のみ。私は偶然解放日に当たったため、国境に行くことができました。

国境付近には朝鮮人民警備隊が待機していました。私は幸運にも15分ほど隊員と会話することができました。

隊員は、朝鮮戦争について日本がどのように考えているかに興味があるようでした。隊員はアメリカが先に攻めてきたから応戦したと話します。一方、日本では真逆に習う。どちらが真実かはわからないと感じました。

拉致問題については、小泉政権の「日朝平壌宣言」で解決したという認識でした。

金政権をなぜ支持しているかを聞くと、代々朝鮮民族は他の民族に服従させられることが多く、独立を保てていることがすごいと感じているからだそうです。

朝鮮戦争では敵国となった韓国については、同じ民族として仲間意識を持っていて、全く嫌っていませんでした。一方、朝鮮戦争で民族が分断されたことや、経済制裁で生活が悪化していることから、アメリカには強い恨みがあると証言しました。

建国70周年のマスゲーム 金正恩氏を80メートルの距離で見る

今回のメインイベント、建国70周年のマスゲームに行きました。マスゲームには現地の人のほか、各国メディア関係者が集まりました。しかし何時から始まるのかは、ガイドを含め誰も知らず、数時間ずっと待機していました。

そしていよいよマスゲームが始まりました。日本では「政府によって強制的にやらされている」、「このパフォーマンスには政治的意図がある」と報じられていました。しかし、パフォーマンスを実際に見たり、演者と話したりすることで、実際は「市民のお祭り」という意味合いが強いように感じました。祖国70年の祭りに出場できたことが心から嬉しかったようです。最も盛り上がっていると感じた場面は、小学生くらいの子供たちが一生懸命踊る姿です。子供が頑張っている姿を応援するのはどこの国も同じだと感じました。日本ではもちろんそのようなシーンは報じられていませんでした。

マスゲームには金正恩氏が登場しました。普段市民の前には姿を現すことはほとんどなく、ガイドも一度も直接見たことがないようです。金氏が登場したことで、ガイドはしみじみと泣いていました。

金氏は私のわずか80メートルほど前方にまで近づいてきました。間近で金氏を見たことがある日本人はあまりいないのではないでしょうか。

旅を終えて 「常識を疑う、自分の眼でしっかりと見る」

私が今回訪れたのは平壌だけです。外国人に広く開放された街を見ただけで北朝鮮を語ることはできないことはわかっています。

しかし今回の旅を終えて感じたのは、「北朝鮮を助けなければかわいそう」というのは違うということです。平壌に暮らす人は、北朝鮮に誇りを持っていて、金ファミリーに対するある種宗教的な感情を抱いているように感じました。それを我々の価値観で見ることは違うと考えたのです。

しかし日本では、北朝鮮に対する悪いイメージから在日朝鮮人は差別を受けることが多いです。そういった人たちを助けたいと強く感じました。

近年、「日本は良い国」だということを強く押し出す番組が増えています。たしかに日本は良い国だと思いますが、そういった固定観念に陥ってしまうと、だんだん悪い部分が見えなくなってしまうのではないでしょうか。

冒頭でも述べた通り、私はフェアに世の中を見たい。自分が知らないことをきちんと認めたうえで、必死に学び、経験していくことが重要だと考えています。

皆さんも常識だと思っている部分を疑って、自分の眼でしっかり現実を見てみませんか。