時が経つにつれ生まれる新しい言葉。これらはどこから生まれ、どのように広まり、一般的に使われるようになるのだろうか。新たに生まれる言葉の発祥や普及について、慶大文学部、井上逸兵教授にお話を伺った。
新しい言葉はいつの時代でも生まれるが、どこから発祥するかは時代により異なる。だが共通するのは、生まれる場が、多くの人の憧れの対象であったり、世間から高い評価を受けている集団であったりすることだ。
例えば、明治維新前後には多くの西洋語が日本に伝わったが、福澤ら思想家たちは漢字の「翻訳語」を生み出した。「翻訳語」は「文明開化」の言葉としてありがたがられた。第二次世界大戦以降は特にアメリカへの憧れが強かったが、この頃以降、漢字の訳語を使わずにカタカナ語としてそのまま利用されることが多くなり、新しい言葉となった。
現代の若者言葉はインターネットや女子高生くらいの若い世代から生まれることも多い。これについて「ネットの使用者が増えて人気サイトが生まれ、AKB48など若い世代に憧れや関心を持つ人が多いことの表れ」と井上教授は説明する。
では、どのような新語が生まれやすいのか。井上教授は「特に若者言葉では強意語に新しい言葉が多く生まれる」と述べる。例えば、「マジ」や「ヤバイ」など、これらの役割の基本は意味を強めることであり、特に意味を持たないため、新奇であること自体が社会的意味を持つからだ。
強意語は慣用的な言葉遣いをひねった、意表を突く表現としても用いられやすい。「全然」を例に挙げると、「全然大丈夫だよ」のように現在では特に若い世代で肯定の意味で使われていることがある。これに対し、「全然」は「ない」に呼応するのでその使い方は間違えだと感じる人たちもいる。しかし、実はもう少し前の時代では、「全然」は肯定の意味で用いられていたのだ。「全然」が「ない」に呼応する慣用があると、それをひねった、予想を裏切る表現が面白がられ、流行り言葉になったりする。
では、現代にうまれた新しい言葉はどのように世間一般の多くの人々に使われるようになるのだろうか。
現代社会の一つの特徴は、以前と比べ、多元化、多様化していることだと言えよう。社会全体がこぞってひとつのものに注目することは少なくなった。個人がそれぞれに関心のあるものに意識を向けている。「たくさんの人の意識が向けられている場で多く用いられる言葉が世間にも広まっていく一方で、小さなコミュニティでの流行り言葉が話題となって、一般に広がることもある」と井上教授は語る。
さらに、一般的に使用されるようになる言葉の特徴として「省略語では語のリズムが三、四拍のもの。また、文字にして書いたときの見た目も関係しているだろう」と言う。日本語は他の言語にくらべてビジュアル依存度が高いということも新語の誕生に関係していると考えられる。
新しい言葉は社会で注目される人たちが生み出したものが広がっていく一方で、いわば「集合知」として、対人的関係の変化を反映させながら形成されていく面もある。
(下池莉絵)