慶大理工学部の学門制

 

賑やかな日吉キャンパスの奥にひっそりと存在している矢上キャンパス。慶大理工学部の拠点であり、キャンパス内では日夜研究活動が盛んだ。しかし、そこで行われている研究や、理工学部の実態について知っている人は意外と少ないのではないだろうか。この連載では、慶大理工学部の現状についてさまざまな観点から見ていきたい。

第1回目は、現在慶大の理工学部が大学内や世間からどのような評価を受けているのかを考えていく。 最初に、大学受験という観点からの評価について。研究費用などで、どうしても文系学部よりも学費が高くなる理系の学部。不況が続く現代において、学費の安い国公立大学の人気は、理系においては顕著である。しかし、私大が入学者確保に苦しむ中、慶大の理工学部2012年度志願者は3・4倍と、比較的安定した受験生人気を保っている。また前年度の倍率3・1倍を上回っており、増加傾向にあると見受けられる。偏差値でも私大トップクラスであり、慶大理工学部の人気は安定している。 次に、理工学部に通う塾生は、自分の学部に対してどのようなイメージを持っているのか。

慶應義塾湘南藤沢高等部出身の江村裕太さん(理2)は大学入学前に持っていた慶大理工学部のイメージを、「研究の早稲田、就職の慶應という話を聞いていた。とはいえ、慶應の理工も勉強内容や実験は充実しているイメージはあった」と振り返る。 外部の高校から進学した浅井雄亮さん(理2)は、「1年生の時に専門学科を決めずに、広い内容を学べるという学門制に魅力を感じた。異なる関心を持つ学生と共に学ぶ環境が、お互いにいい刺激を与えてくれるのではないか」と話した。 慶大の理工学部は、研究に対して必ずしも良い印象があるというわけではないようだ。それよりも慶大自体の就職力の強さ、また他大とは異なるカリキュラム面での魅力が、塾生の考える慶大理工学部の良さなのである。

最後に、1990年に開設され成長を続けるSFCとの比較。SFCにおいても環境情報学部などで科学的な研究が行われているが、創立から73年の歴史をもつ理工学部の研究とは何が違うのか。

SFCは文理一体型を取っており、人文・社会科学、芸術などの広い分野と融合した複合研究を行っている。それに対し理工学部の研究は、ある特定の分野において専門性が高い。理工学部も学部内における学科の連携は強く、理工分野同士の融合研究は行われている。文系分野とのつながりがあるかないか、SFCと理工学部の大きな違いはそこにあるのではないか。

良い面だけでなく悪い面もあるが、それでも慶大の理工学部にしかない魅力があるという評価が感じられた。しかし、塾生からの良い評価をあまり聞けなかった研究内容。次回は時代をけん引する理工学部の教授に、ご自身の研究内容について語ってもらう。矢上で進んでいる最先端技術について、改めて認識していきたい。

 

(小林知弘)