知られざる名作も多い

慶應義塾のイメージの一つとして、「福澤諭吉」をあげることに異論がある人はいないはずだ。だが、彼の膨大な著作を読んだことがある人はどれほどいようか。そこで今回は、福澤研究センターの都倉武之准教授に、福澤諭吉の著作について伺った。福澤研究センターでは、塾内外で福澤諭吉や義塾に関連する資料を収集し、それをもとに近代日本の研究を行っている。
まず最初に伺ったのはこれだけは読んでおきたい著作。これは『学問のすゝめ』だそうだ。『学問のすゝめ』は、福澤が近代化、文明化のために日本には何が足りていないかを説いた本。福澤が若い頃に書いた本で、多くの人に分かってもらえるよう書いたものなので、非常に分かりやすく、かつ勢いのあるユーモアに富んだ文体が特徴だそう。
また、実はこの『学問のすゝめ』、初編があまりに好評だったため、その後17編まで書き足されていったという経緯がある。現在出版されている本は初編から17編までがまとめられ1冊になっているが、福澤が書きたかったエッセンスは初編の部分に凝縮されており、この部分を特に深く読んでいくべきだということだ。
次に伺ったのは、あまり知られていないがお勧めの著作。『日本婦人論』や『男女交際論』『女大学評論』といった、福澤が「女性」について論じた著作群を挙げられた。これらは福澤が女性の地位向上について語ったもの。男女平等の意義などについて述べられている。今となっては当たり前の考えだが、時代は一夫多妻が法律上認められていた明治時代。その時代にあって男女の平等を説いている点に福澤の極めて進んだ考え方が見える。
興味深いのは、一見堅そうな印象のある福澤が、男女間の交際はどうあるべきかという本も出版している点。『男女交際論』では、男女交際の形態に関していくつかの形を示し、文明化の進んだ日本ではどのような交際をするべきかを論じている。
最後に福澤の著作を読む上でのポイントを伺った。都倉准教授は「福澤の文体やリズムを楽しむこと」だと語る。福澤の文章は文語体ながら分かりやすくリズムが良いのが特徴。ぜひ原文にあたり、文語体で福澤の文章を味わって欲しいとのことだった。いずれの著作もメディアセンターで借りることが可能だ。ゴールデンウィークも明け、落ち着いてくるこの時期、一度福澤諭吉の著作に触れてみるのはいかがだろうか。       (北村成)