慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センターは2月15日、東日本大震災後の家計行動を追跡調査した「東日本大震災に関する特別調査」(第1回)の報告書を発表した。調査結果からは、大震災や原発リスクなどの直接的な影響だけではなく、睡眠時間の減少、幸福感の上昇など間接的な影響も見受けられた。同センターは、今後も継続的に研究を行っていくという。           (下池莉絵)

同調査は同一人物を昨年6月と10月の2回にわたって、追跡したもの。さらに、2004年から毎年1月に実施している、人々の行動パターンにおけるパネル調査結果も用いて報告書を作成した。調査対象は全国4150の世帯。東日本大震災後の家計行動の把握により、全国の家計への影響を明らかにし、復興や防災に関する政策立案や学術的発展への寄与を目的としているという。

同報告によると、震災前後の人々の行動パターンを比べると、震災後にストレスの上昇、睡眠時間の減少が見られる。また、誰でも均等に不安を感じているのではなく、子供がいる家庭や低所得者層世帯はより大きな不安を抱えていることがわかったという。調査結果は、こういった一部の人々への影響に関する対策もきちんと考えることを促す。

さらに同調査では、震災後には低所得者層や非正規雇用者層など特定の層で「幸福感の上昇」が見られた。

幸福感は相対的で影響を受けやすいため、被災者の境遇と比較し、「自分の方が相対的には悪くない」と考えることで幸福感の上昇が見られたという行動経済学的、また心理学的解釈も可能と同報告はしている。

ボランティア活動の面においては「高賃金で、時間に余裕がない機会費用の高い層での活動が目立つ」と、高所得者層などの特定層の人々のボランティアへの意識が高まったことを示す。この要因としてパネルデータ設計・解析センターの山本勲商学部准教授は、組織や企業による活動機会の設置を挙げ、「ボランティア活動のきっかけをつくることが非常に大切」と語る。

以上のような間接的影響は、被災地だけでなく日本全国広範囲にわたっている。したがって今回の調査結果は、より世の中に還元できるものとなると同センターはしている。

震災後の節電にともなう労働時間の短縮は、労働過多の傾向にある日本人にとって、働き方を見直す契機になったという。仕事と生活とのバランスを均衡に保つワークライフ・バランスの意識を高めた可能性があると同報告はしている。同センターはこの状態が今後も継続していくのかを、昨年10月の調査結果も踏まえながら研究していく意向。