法学部に入学し、新しく出来た友人と話していると、必ず「どうやって大学に入ったか」という話になる。「一般入試」「指定校推薦」「内部進学」とそれぞれが乗り越えてきた試練が共有される中で「FIT」と言った途端、その場にいる全員が一斉に「何それ」と聞く。このように、2006年度入試で採用されてから今年で4回目の実施となる法学部FIT入試の認知度は高くない。そこで、今回は受験前の高校生を対象に、FIT入試とその合格者の様子を簡単に紹介したい。この記事が読者である高校生の可能性を広げる一助となれば嬉しい。

 

そもそもFIT入試とは、近年全国の大学で導入が進んでいる「AO入試」に位置づけられており、試験内容は書類審査による一次選考と、模擬講義・論述試験、グループディスカッションと個人面接による二次選考の二段階に分かれている。AOと聞くと特別な実績が必要と思いがちであるが、合格者全員がそういうわけではない。部活動や資格、ボランティア、その他自分が高校時代に興味を持って挑戦したことを何かしらの形で1つでも証明できれば、出願する価値は十分ある。就職試験に似て、合格基準が曖昧であるため、出願書類をしっかり書き、二次審査の論述と面接の対策をしっかりして、後は運が向いてくるのを待つしかない。しかし、一般試験の対策をしながら受験する人も多いので、どうしても慶應法学部に行きたい方は、一つのチャンスとして受験することをお勧めする。




合格者の特徴は、基本的に「変わり者」と言われ、良い意味でも悪い意味でも「自分を持っている」ところだ。だからこそ、この不思議な入試を乗り越えられたのだろう。AO入試による学力低下が指摘されているが、FIT入試合格者に関しては、成績が思わしくない者も全教科ほぼAという人間もいる。ただ、成績は悪くとも、大学外で他の成果を挙げてくる人間がいる。FIT入試は10月には合格が決まるため、学力面で心配な場合は大学が始まるまでの期間に語学と世界史の勉強をしておくと、入学後に苦労しなくていいかもしれない。

他にもこの期間で、自動車免許を取ったり、1人暮らしの人は家を決めたり、一般受験生よりも余裕を持って大学進学への準備が出来るというメリットがある。しかし、一般受験生への配慮を忘れてはならない。入学後の冬、一般受験生が辛かった受験期を振り返っているときに、「去年はスノーボードに行った」などと口を滑らせると、袋叩きに遭うのは必至であるため、合格した場合は注意してもらいたい。




AO入試に関してはいろいろと批判があり、FIT入試も例外ではない。ユニークなのはいいが、「勉強しなくて済む入試」という部分が否めず、まだまだ改良が必要である。しかし、FIT入試のメリットは慶應を第一希望とする学生を安定して確保できる部分にある。かつて一般入試にも課されていた面接がなくなってしまい、慶應が国立落ちの受け皿の場となる可能性が高くなってきている。国立至上の意識が蔓延するこの国で、私立大学が学力試験と並行して、一定のレベル以上でユニークな思考・経験・能力を持ち、入学後やる気に満ちて勉強する学生を集めることで教育に幅を持たせるのも方法であると思う。それが、国立大学にはない私立大学の存在意義にも繋がるのではないだろうか。

(石川智成)