「人生本来戯(たわむれ)と知りながら、この一場の戯を戯とせずして、恰(あたか)も真面目に勤め……るこそ蛆虫(うじむし)の本分なれ」。『福翁百伝』の(七)「人間の安心」での福澤諭吉の言葉だ。福澤先生の達観した人生観が見てとれる▼この文章は人生を蛆虫に例え、そのはかなさを表現している。人生のすべては戯れである。いい加減に取り組むことも、本気で取り組むこともできる。それは個人に完全に任されている。そのような中で、いかにまじめに取り組むことができるか、そこに人生の価値が表れる▼人生に感情、葛藤、撞着はつきものだ。それらに惑わされることなく、自分に言い訳することなく真面目になれた者のみが人生を謳歌できる▼多くの受験生が、人生の意味について、勉強することの意義について悩んだだろう。まずはスタートラインに立ったことに敬意を表したい▼天王山と呼ばれる夏にも己を甘やかすことなく勉学に励み、他人との差が気になりだす秋にも自分のペースを保ち、終わりが見えだした冬でも努力を貫いた者は人生の本質を突いている。春からはその舞台が福澤先生の教えを継ぐ慶應義塾となることを祈っている。   (堀内将大)