「英語ペラペラになって金髪美女とよろしくしたいです。でも面倒くさいから勉強はしたくありません。どうすればいいでしょうか?」     (文2男)

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「イヤね、そんな努力なしでペラペラになるに越したことはないけどね、世の中そんなに甘くないからね。そんなわがまま通用していたら、今頃世の中、野球選手とサッカー選手だらけだよ。ほんとゆとり教育の弊害だな」とほとほとあきれ果てているのは所員H(経2男)。すると隣でビビン丼大盛を頬張っていた所員S(商2男)が一言。「カタカナ英語っていうの知ってる?ジョン万次郎っていう人が作った手引書がもとになっているんだけど」。なんか聞いたことあるぞ、ジョン万次郎。○馬伝でトー○ス松本が演じていたような…。「やっぱ勉強したくないなら母国語の力を信じよーぜ」と爽やかに祖国も泣くせりふを叫ぶS。「あれ、でもお前語学Dとかとってなかったっけ……?」「……」。とにかく2人は街へ繰り出した。

ミッションは事前に各々がサイトなどで調べたカタカナ英語を使用し、会話が繋がるようにネイティブスピーカーへ話しかけること。夜の渋谷に出た2人は、早速話しかけられそうな外国人サーチ。通りがかった黒い長髪、おしゃれなチョビひげを蓄えた大柄なミスターを発見。ちょうどHが抱く万次郎のイメージに近かったこともあり、仮万次郎と名付けてフォーカスオン。

Sがいきなりグッと前に出る。「掘ったイモいじるな」。は?とハテナマークのHと同じく、「Hot? What?」とけげんな仮万次郎。しかし「time?」「Yeah.」「Oh,5:30」。なるほど、(What time is it now?)か。Hが一人で納得していると「湯呑?(You know me?)」「No.」と会話を続けるS。もろ日本人英語、しかも内容が意味不明の質問をされ続け、仮万次郎がキレたらどうしよう。Hのそんな心配もよそに、Sは何ふり構わず突っ込んで行く。もう後には引けない。Hは密かに覚悟を決めた。

ここで、にわか英語が通じたことで気が大きくなったSが得意げに選手交代の目配せを送ってきた。Sの勘違い甚だしい上から目線に不快感を覚えつつ、したためておいた質問を繰り出した。「上は10号(Where would you go?)」「Where? What?」外人特有の高圧的な聞き返しにテンパるH。もっとも外人にそんなつもりは一切ないのだが。「上はwould you go?」ビビりながら、後半部分を気持ち英語に似せて言うと仮万次郎は、難解なパズルを解いたかのようなご満悦な表情だ。アクセントが大事らしい。和洋折衷万歳。「ワシの弟子(Washington D.C)」「What?」「見合い減る冬?(May I help you?)」「Thanks. No problem.」仮万次郎にとって、俺らがいなくなることが何よりも一番の助けだろう。「下駄飛ぶ部屋。(Get out of here.)」「Why?怒」仮万次郎の怒りに慌てて「手切ったジジイ♪(Take it easy.)」「……」。若干あんぐりし始める仮万次郎。ふと隣を見るとなぜかドヤ顔のS。腹が立つ。  ここでHはSに「ガタンゴトン」と連呼させる。何事かと身構える仮万次郎。いい歳して何をやってるんだ俺は。しかし、ここで引き下がっては今までの苦労が水の泡だ。とことん行くしかない。「揚げ豆腐!(I get off)」さらにベンチを座席にみたて「知らんぷり~(Sit down, please.)!」と大声で連呼。周囲の雑音と3人の間に漂う静寂とが強烈なコントラストを生み出す。仮万次郎はそろそろうっすらと身の危険を感じてきたのか「Oh, thanks….」と苦笑いし、渋谷のベンチで必死に電車のジェスチャーをする不審者2人から去っていった。うん、でもその場の状況に合ったことは結構伝わるみたいだ。

ここでHが出した結論は、その一、カタカナ英語を土台としつつ自分なりにアレンジして伝わるように工夫すること、その二、アクセントをはっきりすること、その三、やはりきちんと文脈を意識すること、であった。

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翌日、HとSは報告レポートを所長Aに提出しに行った。「あら、2人ともお疲れ様。収穫はあった?」「収穫あったっていうか、最早収穫しかなかったですね」と相変わらずドヤ顔のS。「なんか2人とも顔つき変わったわよ」「いやもうネイティブと一応渡り合いましたから。左心房が強くなりましたね」とHが言う。「よかったわね。S、あんた落とした語学も今度それでいきなさいよ、余裕なんじゃない」と所長A。「でも語学1限なんで起きれるかどうかが問題なんですよね」。「爺指す暗い人(Jesus Christ) まったく、もう!」。来年のSの三田行き可否は神のみぞ知る。

(TOSHI・しゃび)