一流レストランが立ち並ぶ表参道。去年の9月にオープンしたフランス料理店「レフェルヴェソンス」は、六本木通りから少し離れた静かな場所にある。

そこでエグゼクティブシェフを務める生江氏は、慶大卒業後に料理の世界へ挑んだ異色の経歴の持ち主だ。




料理の道に進もうと決意したのは3年生の頃。「各界で活躍する人々と、腕一本で交流できる世界に惹かれた」と話す。

就職活動を行う友達をよそに、卒業までパスタ屋のキッチンでアルバイトを続けた。「不安は全くなかった。むしろ、多数派に埋もれて自分を見失うことの方が嫌だった」と当時の心境を語る。

卒業後、都内のイタリア料理店に就職したが、生江氏にとって厳しいスタートとなる。周りは調理専門学校や海外で経験を積んだ人ばかり。大卒者がほとんどいない職場では、23歳年下のシェフが「先輩」だった。

転機が訪れたのは、修業の目的で行ったニューヨーク旅行。料理関連の文献を専門としている図書館で、フランス料理界の巨匠ミシェル・ブラスの本に出会った。ページを捲るごとに、郷土料理をモチーフにした自然と調和する料理が次々と現れた。

「掴みきれていなかった自分の理想とする料理にピタリと一致した。自惚れじゃないけど、『先にやられた』と感じた」




帰国後、すぐに当時の仕事を辞めて、北海道洞爺湖にある店でミシェル・ブラスに師事した。ずっと勉強していたイタリア語も捨てて、一からフランス語を学んだ。

このような生江氏の常識に縛られない決断力、すぐに実行へと移す行動力の原点は高校時代にある。

生江氏は「絶対にここしかない」と両親を説得し、当時から積極的に留学生を受け入れていた国際基督教大学高等学校(ICU高校)に進学した。

国際化が進んだ校内では、自然に日本語と英語が飛び交う。若い頃から多様な文化や価値観と触れ合うことで、世界観が大きく広がった。

高校時代の思いは、日本で店を任されるようになった今でも変わっていない。「まだまだ、この店は第一段階。もっと多方面で活躍するお客さんと料理を通じて会話をしたい」と話す。

美味しいだけではなく、「型破りな」料理でお客様に楽しんでもらい、生き生きとしたエネルギーが広がる空間にしたい。

「発泡」を意味する店の名前には、そんな思いが込められている。

 

(横山太一)