体育重視・6カ年持ち上がり

幼稚舎の外観
幼稚舎の外観

 広尾は天現寺橋。ここに小学校がある。慶應義塾幼稚舎(以下、幼稚舎)。慶大にいながらも、その実態は知らない人が多いのではないだろうか。探るべく、慶大福澤研究センター所員でもある加藤三明幼稚舎長にお話を伺った。
 2009年に創立135周年を迎えた幼稚舎。1874年(明治7年)に、福澤諭吉の門下生が年少の塾生を集めて教育を行い始めたことに起源をもつ。
 幼稚舎の教育理念は大学同様、福澤諭吉の教え「独立自尊」に基づくものである。「自ら問題を探し出し、それに対して解決策を見つける気力・能力・体力を身につけてほしいと考えています」と加藤舎長は話す。
 幼稚舎の教育方針で特筆すべきは、体育を重視していることではないだろうか。全員が卒業までに1000メートル完泳を目指すほか、マラソンやスキー合宿など、丈夫な体づくりに力をいれている。これも同じく福澤諭吉の唱えた言葉「先ず獣身を成して後に人心を養う」に従った教育方針である。
 また、「6カ年持ち上がり担任制」をとっている。これは、文字通り6年間クラス替えもなく担任も変わらない制度で、担任にかなり広い範囲で裁量が任されている。加藤舎長は「6年間任せるということは、時間的な余裕をもつことができる。幸いにも受験などを意識する必要もないため、児童本人が物事に対して能動的な姿勢になるまでまつことができる」と言う。
 幼稚舎は各学年K、E、I、Oそれぞれの組にわかれており、全校24クラス。クラス編成は男女の人数比以外に意図的な調整は行われないが、担任によってクラスの色があるようだ。
「学校としての行事はあるが、それ以外はそれぞれの担任のアイデアに任せてあります。お米作りをやりたいとして、農家の田んぼを借りていたクラスもある。決して横並びではありません」
 義塾は2013年に横浜市に新しく小学校の開設を予定している。「40年ほど前からもう一つ小学校を、という話はあった」と話す加藤舎長。その理由に幼稚舎の志願者が多くいこと。そして、幼稚舎の規模は変わらないのに対し、上の高校、大学の規模は広がっていることを挙げている。
 しかし、「新しく小学校ができるからといって、幼稚舎の方針を変えるつもりはない」と断言。幼稚舎はこれまで受け継いできた伝統を大切にしていく。
 慶應義塾でありながらも幼稚舎、各中学、各高校、そして大学と、教育内容は一貫していない。理念こそ「独立自尊」に基づいているが、それに対するアプローチはそれぞれに任されている。
 「恵まれている環境であることに甘んじるのではなく、心身共にたくましさを身につけ、将来社会に還元できる人に育ってほしい」と加藤舎長は締めくくった。

(入澤綾子)