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「深く愛すること、強く生きること」。この普遍的テーマをあなたは深く考えたことがあるだろうか。

物語の舞台は1960年代後半、学生運動の全盛期。主人公ワタナベ(松山ケンイチ)は高校時代に親友のキズキ(高良健吾)を自殺で亡くした。東京の大学に進学したワタナベはかつてキズキの恋人だった直子(菊地凛子)と偶然再会する。同じ喪失感を抱えた二人は次第に距離を縮めていくが……。

映像美で知られるトラン・アン・ユン監督の才が余すことなく発揮されている本作。四季折々の風景、そして繊細に揺れ動く登場人物の表情。耽美な趣のあるこの作品には無駄なシーンなど存在しない。一つ一つの映像が一流の芸術品。日常のありふれたものすらいとおしく思わせるような映像に思わず目を奪われる。

だがこの映画の見どころは、なにもこうしたカメラワークだけではない。囁くように言葉を紡ぎ、その表情一つで物語に奥深さを与える俳優陣の演技にはため息が漏れる。

何より特筆すべきは直子を演じる菊地凛子。彼女なくしてこの映画は語れない。

身を裂くような菊地の演技が胸を突く。キズキを喪ってから情緒不安定な直子。彼女を演じる菊地はもはや役など超越した存在にも思えてくるのだ。

能面のような表情。瞳は濡れ、まつ毛が揺れる。狂ったように泣く直子は造形的には綺麗だとは言い難い。しかし彼女の演技は観る者が美しいと言わざるを得ないような迫力に満ちている。

個人的に直子の配役に疑問を持っていたが、映画を観ればもはや直子は菊地以外にあり得ない。不安定で脆くそして美しい。そんな直子を余すことなく表現し、明らかに他の俳優陣を食っている。

しかし物語を作る核となる脚本には不満が残る。村上春樹原作の「ノルウェイの森」を134分でまとめ上げた手腕は評価できるが、いかんせん人物描写が希薄に思えてならない。これでは登場人物の魅力や抱えている問題、彼らのバックグラウンドが観ている者に伝わってこない。あくまでも原作を読んでからという前提ありきの映画になってしまっている。

圧倒的な映像美、そして豪華な俳優陣。一方で演出に気を取られたおざなりな脚本に辟易もする。賛否両論に分かれるところだろう。

喪失の末、何を見出すのか。是非映画館に足を運び、あなた自身の目で感じ取ってほしい。

(米田円)