「人生で最後の打席になるから、悔いなく行って来い」。監督にそう伝えられると、松本和将さん(環4)は打席へ向かった。50年ぶりの早慶両校による優勝決定戦、8回裏。それまで無安打と好投していた早大先発の斎藤にファウルなどで粘ると、「打った瞬間全てが報われた気がした」と振り返るチーム初ヒットを右翼へ放ち、慶大反撃のきっかけをつくった。
子どものころから、高橋由伸さんが活躍していたのもあり、慶應と早慶戦に憧れていたという。シーズンでは、全試合先発起用とはいかないものの、守備固めや代打でたびたび起用された。「上級生になればなるほど、チャンスは減っていく。そういう状況で試合に出られていたのは幸せだった」と語る。
そんな松本さんが3年生になって強く感じていたことが、「自分も部に何か還元したい」という思いだった。そこで、野球部のブログを3年生の12月から、週に2~3回のペースで欠かさず更新し、野球部の普段の練習や部員の素顔を伝えることで野球部と塾内外のファンとの距離を縮めることに奮闘した。優勝決定戦後、自身最後のブログ更新では塾関係者だけでなく、早大生、高校生など、あらゆる人から「ブログ王子」へねぎらいのコメントが届いた。「更新がつらくなったことももちろんある。それでも、高校生や部員などをはじめ、あらゆる人が見てくれていてモチベーションにつながった」
松本さんの座右の銘は「やらなくて後悔するぐらいなら、やって後悔しろ」。母から学んだ教訓だ。今ここで打たなければ後悔する、という思いが実った一撃は、4年間の厳しい練習と部への献身に報いてくれたのだろう。
(内田遼介)