細やかに演出された美術が印象的な、全く新しい「大奥」の世界観。時代劇でありながら目新しい作品に仕上がった。
男だけがかかる疫病が流行り、男と女の比が1対4になった時代。将軍はもとより、全ての要職には女が就き、男が体を売る男女逆転の世界。貧困にあえぐ家を救うために武士・水野(二宮和也)は大奥に上がる事を決意する。しかし、そこにあったのは噂に聞くような容姿端麗な男達による贅沢を尽くした華やかな世界ではなく、俗世に戻る事を許されない、野望渦巻く不条理な世界だった。そんな折、8代目将軍に徳川吉宗(柴咲コウ)が就任する。
この映画の世界では男女の権力関係が逆転しているが、それゆえに男が女らしく、女が男らしく描かれる。
例えば大奥で下働きしている少年たちが水野に話しかけようとするシーンは、女子学生があこがれの運動部のイケメンに話しかけようとするキャピキャピ感がある。
また吉宗役の柴咲コウは、乗馬のシーンや立ち振る舞いなどが男らしく格好良く、吉宗の脇を固める大岡忠相や間部詮房も(両者とも女性)凛とした強さを持っている。
芯の通った役に慣れている柴咲コウに関しては不満点が無かったのだが、二宮和也のキャスティングについては正直不満が残る。『硫黄島からの手紙』での彼の演技は良かった。だが今回の演技に関しては、水野という人間像の一貫性が無かったように感じられる。
映画の肝となっているのはやはり大奥。実際の女性版の大奥と同様に、いびりや同性愛の要素もみられる。支えているのは緻密な美術設定だ。鮮やかな着物や建築物は見ているだけで感心してしまうような出来で、鮮やかな男性の服装というのは目新しさもある。
「男女逆転」という面白いコンセプトの漫画を原作として、全体的にまとまっていた映画ではあった。だが、何かひとつ物足りない。自分の予想の範疇を大きく超える、予想も出来ないような展開がなかった。
個人的には柴咲コウの吉宗がどう政治を変えて行くかまできちんと最後まで描いてほしい所だ。女性の立場が徐々に重く考えられてきた今だからこそ、女性が旧態依然とした男性によって作られたシステムをどうやって壊し、再構築するかという点も描くべきではなかったのだろうか。クリエイターの野心的な想像力を発揮できるのはそこだったはずだろう。
(太田翔)