蝉が道端で、のたうちまわる様子を見ると、夏の終わりを感じる。今年も、1匹の蝉が壁に何度も体を打ちつけながら、鳴き続けているのを目にした。ありったけの力をふりしぼっているのだろう。死に際とは思えないほど、張り詰めた声は、力強い▼幼虫期の蝉は、約7年程度、地中に潜み、成虫として地上で過ごすのは、1週間程度だという。成虫として生きる1週間だけをとらえれば、その人生は我々人間に比べて、驚くほど短く思える▼かの有名な松尾芭蕉が蝉を詠んだ句がある。〈やがて死ぬ/けしき見えず/蝉の声〉。蝉は己の死の時期などものともせず、精いっぱい与えられた「生」の期間を鳴き抜こうとする。一瞬、一瞬を無駄にはすまいというように▼生きる意味を求め彷徨い、目の前の課題から目をそむける人もいる。しかし必死の形相で、何かに取り組んでみなければ、「生」について、つべこべ語る資格はない▼人間もまた、短い人生の中で、懸命に目の前のことに取り組み、今この瞬間に全力を費やすことしかできないのだ。まずは自分のなすべきことを、力いっぱいやりきること。その後に生きる意味はついてくるだろう。 (佐々木真世)