5月27日、アイルランドの人気ロックバンドU2のボーカルであるポール・デービッド・ヒューソン氏(以下ボノ氏)が、三田演説館にて慶應義塾大学名誉博士称号を授与された。国際的な慈善活動家として、アフリカ貧困撲滅やエイズ対策支援のために多大な貢献をしてきたことがその理由だ。本学の名誉博士号取得者は、昭和28年以来、67人目。    

(小串聡彦)

 27日16時15分、ボノ氏が三田キャンパスの中庭に姿を見せると、カメラのシャッター音が鳴り響き、熱烈な歓声が沸き起こった。学生とマスコミ関係者で埋め尽くされた中庭は、一時騒然。ボノ氏は、学生と握手を交わしたり手を振ったりしながら、三田演説館へ歩いていった。

 三田演説館では、国文良成法学部長がボノ氏の名誉博士称号の推薦理由を読み上げ、安西祐一郎塾長から名誉博士称号が授与された。

 ボノ氏は2002年、アフリカにおける貧困とエイズを撲滅することを目標に掲げたNGO・「DATA」を設立。2004年にはアメリカを拠点とする貧困撲滅のための草の根運動である「ONEキャンペーン」、さらに2006年にはボビー・シュライパー氏とともに画期的なエイズ対策基金REDを設立した。ONEキャンペーンの功績により、2002年からの5年間で180万人の命を救ったといわれる。

 授与式に続き、ボノ氏は西校舎ホールで「地球的課題への挑戦―アフリカの貧困・エイズ」というテーマで講演を行った。講演の中で、ボノ氏は自身のアフリカ支援の経験を振り返りつつ、学生に向けて次のように語りかけた。「アフリカでは、3億人もの人が1日1ドル以下での生活を余儀なくされています」「先進国がグローバル化の利益だけ得て、その責任を果たさずに許されるのでしょうか」「いま必要なのは、慈善よりも正義です」――。そのうえで、世界に対する好奇心を持つことの大切さ、そして、市民の一員として日本の政策を後押しすることを強く訴えた。

 今回、ボノ氏の来塾は、「渋沢栄一記念講座(シヴィルソサエティー論)」の一貫として、(財)渋沢栄一財団と(財)国際協力交流センターとのJOINT企画として実現した。今年が同講座5年目の集大成に当たるため、それにふさわしい人物としてボノ氏の名前が挙がったとのこと。当日は、西校舎ホール以外の教室にも中継会場を設け、多くの学生が聴講できるように配慮。講演会の様子は、三田キャンパスだけでなく、日吉キャンパスと湘南藤沢キャンパスにもライブ中継された。すべてのキャンパスで約1600人の学生が参加したとされる。