「農業を始めてから農業に魅かれていきました」
 そう語るのは日焼けした肌と、はじけんばかりの笑顔が印象的な野口豪さん。2009年に総合政策学部を卒業し、現在23歳だ。
 「とにかく循環型社会をつくりたかった。一番の理想は人間の糞を肥料にすること」 野口さんは在学中から肥料作りに関心があった。数々の内定を蹴って、肥料作りの実践の場として農業を選んだ。
 慶大を卒業後、1年間の農家研修を経験。実際に畑作業を始めて、ますます農業に魅かれていった野口さんは農家での研修後、株式会社ECAに入社。
 ここでは生産した野菜を精神障害者に販売させる社会貢献ビジネスを展開している。販売するための農産物をつくるのが、野口さんの仕事だ。
 そんな野口さんのこだわりは徹底的な無農薬。「安心して安全なものを食べてほしいので、農薬は一切使わない」。害虫などが発生した場合は、お酢で対処する。「もし子供がいたら、農薬がたっぷりしみ込んだ野菜なんか食べさせられないでしょう」
 しかし、このような生産者の思いはなかなか消費者に伝わりにくいようだ。
 「もはやスーパーのディスプレイだけでは、何が本当に安全なのか分からない」。さらに、「消費者もメディアに惑わされすぎ。もっと農業に関心を持って、自分で正確な情報を得なければ。メディアに頼りっぱなしでは偏った見方になってしまう」
 そういった状況を踏まえ、今後は「生産者と消費者が直接結びつく関係」が絶対に必要だと語る。生産者と消費者の間にあるギャップを解消する方法――それは生産者と消費者がお互いの生の声を聞きあうこと。これこそが、これからの農業の在り方なのだという。
 「畑には生きた感動がたくさんある」といい、実際に畑に足を運んでほしいと強調する。そうして初めて「野菜ができていることを実感できると思う」
 感動を伴った実感によって、より一層知識もいかされる。
 「今の人は文字と画像の知識がすべてだと思ってしまう。だから、知識量はあっても、本物の感動が伴っていない。それはとても淡泊で悲しいこと」と野口さんは話す。
 だからこそ「本物の感動を農業に、畑の中に見つけてほしい。そして、何が本当にいいものか、それを誰と共有したいのかを考えてほしい」。そうすることで、農業が身近に感じられるはずだという。
 特に、学生には仲間でそのようなムーブメントを起こしてほしいと語る。「学生には人を結びつけるパワーがある。サークル組織などは上下左右にものすごい人の連携を持っている。つながりを利用して、みんなで畑に遊びに来るのも一つの手かもね」
 そう語る野口さんは、今日も畑で野菜の声なき声に感動している。学生のうちに、心の受け皿を空っぽにして、畑に出かけてみよう。今まで当たり前だった野菜の見方が変わってくるに違いない。
        (荒川桃子)