リアルとネット 差を解消する環境整備を

 

 「無断でアップロードされたコンテンツを、違法と知りながらダウンロードする行為を著作権侵害とみなす」
 いわゆる「ダウンロード違法化」を盛り込んだ改正著作権法が、2010年1月1日に施行された。

 違法ダウンロードが正規ダウンロードを圧倒的に
上回っているネット社会。この現状を打破するために、今回の法律改正
がどの程度効力を持つのか。また、次に何をするべ
きなのか。慶大メディアデザイン研究科教授の岸博
幸氏にお話を伺った。
  *   *   * 
 ─―「ダウンロード違法化」をどう評価しますか。
 今まで、ダウンロードを規制する法律がなかったことを考慮すると、
一定の評価はできる。ただ、「ダウンロード違法化」には
罰則がない。そのため、著作権についての知識が少ない中高生には、
拘束力をもつとは考えにくい。1歩前進というより0・5歩前進と言わ
ざるを得ない。
 ─―「違法と知りながらダウンロードした」と権利者側が証明するこ
とは可能ですか。
 現実として難しい。故意かどうかの立証は大変なことだし、膨大な数の違反者を、
個人レベルで対応するのは限界がある。やはり、罰則規定がない以上、「委縮効果」に
期待するしかない。
 ─―ダウンロードを規制するより、アップロードする側の取り締まりを強化しろと
の批判もありますが。
 確かにそうした面もある。しかし、ダウンロードであっても、悪意をもってやって
いる人がいることには変わりない。だから、すでに違法化されたアップロードの次に、
ダウンロードを規制するのは、然るべき順番である。
 ─―今回、違法ダウンロードの対象は音楽と映像に限定されました。さらに対象が広
まる可能性はありますか。
 十分にあり得る。規制は強化されていく方向に動くだろう。ただ、それが著作権法
改正とは限らず、ISP法改正や特別立法などの措置がとられることも考えられる。
 ─―中高生の罪悪感のなさが問題になっています。
 残念なことではあるが、彼らを責める気にはなれない。そもそも、リアルとネット
の世界では常識が違い過ぎている。冷静に考えたら、ネットとは技術が進化して生ま
れた便利な「空間」。リアルな世界と基本的な差があってはおかしい。この差を解消
できるような環境整備を行うことが先決である。
 ─―岸教授が考える、次にするべきことは。
 著作権法を改正するだけではなく、名前を見たらすぐ内容がわかるような特別立法
を作るべき。その際、著作者を守るためには、何かしらの罰則が必要となってくるだろう。
 ─―ありがとうございました。
        (横山太一)

編集後記…

 現在、ネットにおける著作権保護が世界規模で課題となっています。岸教授によると、
世界中の音楽配信のなかで、正規ダウンロードはなんと20曲中1曲のみ!
 この状況が好転しないままネット配信が増えていったら、経済的・文化的に大きな損
失を被ることが予想されます。
 「ネットの自由」とは何なのか、一人ひとりが真剣に考えていく必要があると取材を
通じて感じました。