【つれづれ評論】 映画『今度は愛妻家』 

2010年 東映

「大切なものは失ってから気付く」。よく耳にする言葉だ。人間の性だとしても、失う前に気付きたい。もしかしたら、この映画が大切なものに気付かせてくれるかもしれない。
物語は、ある夫婦の部屋を中心に展開される。戯曲が原作というのもうなずける、場面転換の少ないシンプルな構成。だからこそ、登場人物の心情が切ないほど浮き彫りになる。
かつては売れっ子カメラマンだったが、今はカメラに触れず、仕事もせずにプー太郎生活を送っている夫、俊介。明るくしっかり者の妻、さくらは、そんな夫に文句を言いながらもかいがいしく夫の世話を焼いている。
ある日、さくらが旅行に出かける。「もう戻って来るな」とばかりに彼女を追い出し、口うるさい妻のいない自由な生活を楽しむ俊介。しかし、さくらが何日経っても帰ってこないことに、徐々に不安といら立ちを募らせる。
やっと帰ってきたと思ったら、「1年前から好きな人がいる」と告白し、離婚記念に写真を撮ってほしいと言うさくら。俊介はカメラを手に取り、夢中で妻を写し始める……。
夫の健康を気遣い、「子供がほしい」とせがむさくらに対し、浮気ばかり繰り返す俊介。一見、さくらの愛情が一方通行しているかのように思える。
しかし、突き放したような俊介の態度は、彼なりの愛情表現だったのかもしれない。何をしでかしても、妻はずっとそばにいてくれるだろうという安心感。豊川悦司は、奔放に生きながらも、どこか哀しい俊介の姿を見事に演じている。
さくらを演じる薬師丸ひろ子の小動物のような愛らしさにも注目したい。その他、石橋蓮司演じるオカマの文太や、水川あさみ演じる女優志望の蘭子、濱田岳演じるカメラマン助手の誠など、個性的な登場人物の魅力も存分に楽しませてくれる。
挿入歌は井上陽水の「夢の中へ」。作品の中で何度も、ふたりはこの歌を口ずさむ。この歌に意味を持たせようとするのは野暮だろうか。しかし、ふたりは探し物をしているように思えてならないのだ。
いつまで経っても出てこない探し物。探し物なんかやめて夢の中へ行ってしまえたら、どんなに楽だろうか。けれど、大切なものだからこそ探し続けてしまう。
タイトルの「今度は」という言葉の意味は、映画の中で明かされる。どうか劇場で、自分の目で確認してほしい。
(田中詠美)


PICK UP:

  1. 命削って貫いてみせる 青函トンネル、13日に開業30周年
  2. 日本の風薫る街 地震が襲った台湾・花蓮県に行く
  3. 《受験生応援特集》英語講師・関正生先生に聞く 塾生の英語との向き合い方とは