[東京六大学野球レポート]明大戦・エースの宿命
10月17日 慶大8-3明大 ○
10月18日 慶大1-3明大 ●
10月19日 慶大4-8明大 ●
東京六大学野球秋季リーグ戦は開幕から1カ月が経過し、早くも終盤を迎えた。開幕戦で立大に敗れたものの、法大と東大から勝ち点を奪い優勝への望みを繋いだ慶大は明大と対戦。もう一つのカードは法大―早大。優勝の可能性がある4チームが揃い、神宮球場は今季一番の入客数と盛り上がったが、慶大は1勝2敗で勝ち点を奪えず。4チームの中で最初に脱落することになってしまった。
この週が始まる前の状況としては6勝1敗の早大を5勝2敗の慶大、4勝3敗の法大と明大が追う形。数字の上では1つは負けても勝ち点さえ取れれば早慶戦に優勝の可能性を残すことができた。そのような状況で、慶大は法大戦の連投に続き、この3連戦は全てエース・中林伸陽(4年)が先発。結果的には3回戦で中林が打たれて終戦。なぜ負けたら終わりのトーナメントを戦うような起用がされたのだろうか。
「様々なチーム事情を考慮してこの3連戦は中林を先発で行こうと決めました」というのが相場監督の明大戦での中林の起用に関する質問の答えだ。この「チーム事情」とは何か。法大との1戦目に勝利した後、3番手で登板した小室潤平(4年)が次のようなことを話していた。
「夏に怪我をして調整が遅れてしまったので、僕がこれから先発することはまずありません」
春季リーグ戦で2戦目の先発を任された慶大投手陣の2番手である小室が秋季リリーフに回ったことによって、中林の連投の疲れと3番手以下の投手、どちらを選択すれば勝つ確率が高いかが天秤に掛けられることになる。立大戦、東大戦では竹内大助(1年)、居村裕平(4年)が先発したが、彼らを含めた3番手以下の投手は打線が強力な法大、明大との試合を任せられるまでの信頼を勝ち取ることができなかったのだろう。中林が先発して試合を作った方が、勝率が高いと判断されたのだ。象徴的なのは3戦目、5点を追う7回、無死1、2塁の場面で小室に打順が回ってきた。この場面、ベンチには2投手が残っていたが、それでも小室に代打は送られなかった。点差を詰めても明大の攻撃を2イニング抑えることはできないと判断があったものと思われる。逆にいえばそれだけ中林、小室に対する信頼は厚かったということだ。
数字上は1敗まですることができる。しかし、全勝すれば他チームがどうであろうと優勝決定戦なしの無条件で優勝となる。さらに明大戦から早大戦は2週間の間隔があり休養が十分取れることを考えると、中林を連投させることが最も優勝出来る確率の高い戦略であるという判断もあったのだろう。
さて、優勝の可能性がない早慶戦はどう戦うのか。初戦は中林で間違いない。2回戦は中林か、「もう先発はない」としたが明大戦で5イニング投げた小室が復帰するか、はたまた他の投手か。興味深い問題である。
中林は1回戦、2回戦は先発として試合を作ったが、3回戦に大量失点。スコアからみると「疲れが出た」のかもしれない。では、2回戦を中林に投げさせなければ3回戦は打たれなかったのか。そうはいかないように思えるのだ。3連投といっても中林は1回戦89球、2回戦64球とそれ程多い球数を投げずに降板しているからだ。さらに、いい当たりをされるのは3回戦だけに見られたのではなく、1回戦の立ち上がりもそうだった。
1回戦、中林はいきなり明大打線に捕まり初回に2失点。2回にはパスボールで3点目を献上する不安定な立ち上がり。しかし、打線が集中打で同点とした3回表からは別人のような投球を見せ、6回まで危なげなく抑えた。
「立ち上がりは調子が悪かったが、打線の援護のおかげで落ち着きを取り戻して本来の投球ができた」というのが我々記者を含めた自称「通」の見方だろう。勿論そういう精神的な部分もあったのだろうが、試合後、序盤の失点について相場監督はこう語った。
「明大さんはバットを短く持って、中林対策をやってきていたので、その執念に押されてしまった感じがありました」
投球を受けた捕手の長崎正弥(3年)は
「調子自体は決して悪くなかったと思います。球筋もまずまずでした」
実際、当の中林も
「法政もそうだったんですけど、右に打ってやろうというのを強く感じました。研究されているなという感じで。そこでカウントを稼ぐ球にインコースを使ってみたら抑えられました」
本来、中林がカウントを稼ぐ球は外角の直球かチェンジアップ。それを徹底的に狙われていると2回までに感じ取り、明大打線の裏をかく配球にした結果が3回から表れたというのが「本当の答え」であった。
3回戦。中林のストレートは140キロを超え、キレや制球もまずまず。ストレートに関しては連投ながら本来の出来と言っていいものだった。しかし、もう一つの「生命線」であるチェンジアップの制球が定まらない。これがストレートの力だけではなく、総合力で勝負する中林にとって致命傷となった。カウントを稼ぐためにはどうしてもストレートに頼らざるを得なくなる。そこを、チェンジアップを捨ててストレートに絞った明大打線に見事に狙い打ちされた。事実、中林が浴びた8安打はほとんどがストレートを捉えた痛烈な当たりだった。
「疲れはあまり感じていませんでした。自分に力がありませんでした」
試合終了から30分以上が経過した後であったが、中林は涙を浮かべながらこう答えた。
残念な結果ではあるが、今回は相手が一枚上手だったということなのだろう。この敗戦で優勝がなくなった状況で早慶戦を迎える。中林は「まだ何も考えられない」と話したが、中林の野球人生はここで終わるわけではない。中林は慶大から唯一プロ志望届を提出しており、29日、運命のドラフト会議が控えている。これを糧に、今後さらに飛躍してもらいたい。
優勝争いは法大、早大、明大に絞られた。早大は間違いなく1戦も落とさないという意気込みで向かってくるはずだ。最大の目標がなくなってしまった慶大だが、秋季4連覇を狙う早大を苦しめる戦いを期待したい。
文:湯浅寛
写真:湯浅寛
取材:湯浅寛、阪本梨紗子、冨岡洸文、飯田拓也、御園生成一、井上史隆、劉広耀




