慶應義塾大学病院は、2009年1月6日、これまで世界で報告例のない複雑心奇形の患児の生体肝移植の手術を行い、成功した。
 患児(手術時生後8カ月男児、体重4・3キログラム)は、複雑心奇形を伴った肝道閉鎖症術後肝不全で、母親をドナーとして慶大教授・森川康英氏(小児科医)により、生体肝部分移植が行われた。
 今回の手術において、当初患児は複雑心奇形、腹部内臓奇形、低体重、ドナーとの血液型不適合などの様々な問題を抱えていた。そこで主治医の星野健講師を中心として診療科間の横断的チームを結成。手術の適応について約3カ月間に及ぶ議論を行い、患児の家族との話し合いのもとに、手術の施行に至った。
 複雑な心臓の奇形を抱える患児への生体肝移植手術は、心臓への負担が高いため、非常にリスクが高い。また、奇形を伴った症例に対しての肝臓移植は報告例がない。今回の成功の理由として、小児外科、小児科(循環器)、麻酔科、小児心臓外科、一般外科といった複数の専門グループによって編成されたチームがそれぞれの専門的立場からディスカッションを重ね、治療法を追及したことにある。また、その他の要因として、病理生体の詳細な分析を行ったことが挙げられる。
 患児は手術後の経過も順調に推移し、心不全の増悪もなく、肝機能も良好で、体重も6・5キロに増加し、術後4カ月で無事退院した。
 現在、肝移植は難治性の肝硬変を筆頭に、ほとんどすべての肝疾患に適応している。慶應義塾大学病院は、既に120を超える症例に対して生体肝移植を行っており、移植成績は全国平均を上回っている。