佐々木ヘッドコーチは、これまでに慶大を優勝2回、準優勝1回に導いた功績がある。昨年度は、1部昇格とインカレ(全日本学生バスケットボール選手権)優勝をチームにもたらした。今年度もトーナメント(関東大学バスケットボール選手権大会)優勝を果たし、リーグ戦、インカレでも手腕を発揮することが期待される。
今回は佐々木ヘッドコーチに慶大バスケットボール部、日本のバスケットボールの現在について話を伺った(インタビューは2009年9月7日に行われた)。

3か月前のトーナメント決勝、東海大との一戦。残り時間6.9秒、95-93で慶大がリードしてしたが、東海大にチャンスを与えてしまった。そんな状況での緊張のラストプレイは、東海大のレイアップ。しかし、岩下のブロックにより東海大に勝利を譲らなかった。この最後の岩下のプレイを「みんな偶然と思っているでしょうけど、僕はそう思っていない」と断言したのは、佐々木ヘッドコーチだ。

トーナメント決勝で東海大のレイアップをブ��ックショットでおさえた決める岩下。佐々木HCは、このプレイを「偶然ではない」と語る。
トーナメント決勝で東海大のレイアップをブロックショットでおさえた岩下。佐々木HCは、このプレイを「偶然ではない」と語る。

―春のトーナメント優勝というのは大きかったですね。
「圧倒的だったね。東海の時も僕がまじめにやれば、15点ぐらい勝ってる」

―まじめにやらなかったというのは?
「学生のスローガンが『自立から勝利へ』ということで、去年は勝利至上ということだったでしょ。そうやって進歩してきているんだから、ここは自分たちで勝たなきゃいけないよねといって、最後の2分ぐらいタイミング良くタイムアウトをとってやれば12、3点くらい勝てたとは思うんだけど、あえてそれを取らずに頑張らせた。最後、岩下がブロックショットだったでしょ?あれは、みんな偶然と思っているでしょうけど、僕はそう思っていない。練習の積み重ねがあって、出るべくして出た」

―夏は遠征が多かったが、収穫はありましたか?
「インカレを意識して集団で移動し力を出そうというリハーサルになりました。ジャカルタでは、水とか新型インフルエンザとか爆弾テロとかいろいろあって、そういうこと全て練習ということで行ったんだけど、健康管理が出来なくて。その反省はすぐ名古屋遠征とか韓国遠征で活かされました。そういう意味で言うと成果あったかなという気がします」

―プレイや戦術の面での収穫はありましたか?
「早攻めとか、展開の速いバスケットというのは、もう一段安定的な力が付いたかなという感じがします。成果ありましたよ」

―その経験は、リーグ戦でいい形となって出そうですか?
「たぶん出ると思いますよ。このままの調子でいけば、東海大に15、6点は勝てますよ。流れによってはもっと勝てる可能性がありますよ。ただ、ケガ人が出たらだめだけどね。慶應はバックアップが少ないので。東海大はバックアップが多く、15人ぐらい出ても同じ力を持っているから、各ポジションに3人ずついる。それぐらいの力はありますよ」

バックアップを語る

―バックアップという話が出ましたが、この夏、バックアップの育成で成果はありましたか?
「ガードのバックアップは、4年生の店橋がナイスプレイが少ないけど、悪いこともしないという、いつ使っても大丈夫。金子は、だいぶスピードが付いてきた。それから、松尾という2年生が力が付いてきたので、予備軍はいますよ。ただ、それがまだ確実なものまでには育ってきていない。フォワードで言うと、家治がスターターで行っていいくらい安定してきている、課題とすればディフェンスかな。家治は6番目でいきます。あと、1年の桂がマルチプレーヤーになりそう、だからそのへん使っています。あとは、4年生の石井が相手のポイントガード、シューターを抑える、サッカーで言うエースキラー的存在になってきたので、それは大きな力を出せると思いますよ。スターターと、総合的な力で言うと、差があるけ、バックアップが育っていないわけではない」

―(バックアップが)リーグでも活躍するのではないでしょうか?
「リーグでも機会を与えて、モノにできるかは本人たちの心がけ次第だけど。スターターの5人が崩れるとは思わないので、バックアップには徐々にあたえ機会を与えますよ。あとは、心配していた原田君が途中ダメだったけど、部員皆の協力があって、特に4年生の石井と原が、我々がジャカルタに行った時に相当指導してくれて、今、相当、練習態度が変わりました。ただ、技術が上がったかといえば、そうは言えないけど、取り組む姿勢が大幅に改善されたので、そういう意味でいうと、もう少し我慢し、このまま継続して今の練習に取り組む姿勢を堅持できれば、インカレにはもしかすると大化けするかもしれない。リーグ戦は、少しずつ出ると思うけど、まだ力になっていないと思う、練習を一生懸命にやれるようになってきたから、それが続けば相当戦力になると思う。最終的には田上が活をいれた。『お前、本当にそんなもので我々の仲間に入れるのか』って。長続きしてほしいね」

―戦力になってもらいたいですね。
「そう。候補生はたくさん出てきた。今年の夏が1番収穫あるんじゃないかな。今までの夏に比べて。そんな気がしますよ。バックアップの育成が順調にきていると感じます。たぶん、最初の2週以外はそんなに接戦しないと思っているので、どれぐらい大事なところへ出て行って頑張れるか。試合が決まって出て行ってもあまり意味がないですよ」

今年のチームを語る

―今年のチームの特徴は?
「どのチームとやっても、いつでも力を発揮できると感じます。例えば、大きいチームと対戦する時には岩下がいて、ものすごくアグレッシブに得点を取りに来る連中に対しては小林大祐がいるし、酒井がいる。それから、コントロールするようなチームがいても二ノ宮がいて、ゲームメイクもできるし、最後は田上が精神的な支柱になりつつある。どこと戦っても相当な力を出せると思います。今まで真剣にゾーンアタックの練習をやってなかったんですけど、去年ぐらいから真剣にやり始めたので、シュートが落ちる可能性もあるけど、ゾーンアタックについてはあまり心配していない、相当良いんじゃないかと思っています」

―弱いところはどこにありますか?
「弱いところはね…今は(酒井)祐典が本来の力を出し切れていないですよ。そこが本来の力を出せないと、大祐が頑張りすぎるので、そこらへんかな。だから、祐典を正常な形に戻すことですね。あとは、ファウルトラブルね。二ノ宮と岩下のファウルトラブルが起きた時が弱みになるかな。あとは怪我ね。学生にもこの前言ったんだけど、関東で春勝ったということは、もうインカレでベスト4に入って、優勝争うよという有資格者なんですよ。61回やって、関東以外から優勝のチームが出てないですよ。それくらい地方の大学とは差がある。ということは、関東の大学を制するということはイコール、インカレを勝つこと。リーグ戦で東海大と青山学院大とどれくらいの試合ができるかによって、インカレの優勝が見える。だから、第1週、第2週にかかっている、そう悪い戦いをしないとは思う。どんな相手がきても力は出せるんだけど、相手があることなので。みなさん心配してくれるが、僕は相当強いと思っているよ」

―このチームの強さとは何でしょうか?
「安定しているっていうのが一つ。さっきも言ったように、ヴァリエーションが多いよね。岩下がダメだったら田上ががんばるし、大祐がおかしくなったら祐典が頑張るし、その逆もある。相当良いように思います。それと、田上がだいぶ落ち着いてきた。ちょっと責任感に押しつぶされそうな雰囲気だったけど、ここのところ乗り越えてきつつある。だから、第1週、第2週を頑張れば、田上が成長するだろうし。全部勝てそうな気がする。チームとして相当スピードもついてきたよ。だから、相手がちょっと気を抜いたら、相当走れると思う。久々にこんなに自信をもっているんだけど…」

―では、最終的にどういうチームにしたいですか?
「去年の話の流れから続いているんだけど、去年はインカレでも100点とって勝とうよというのを、今年は120点にあげてるんですよ。それくらいトランジッションを速く。完成型はインカレで、準決勝くらいまで120点くらいはとっていくようなバスケットになってくれれば、ある意味、今のチームが完成型かなと思っているんです。だから、リーグ戦も半分くらい100点アップして勝っていきたい、それがバスケットの原点ですから。得点されると、次の瞬間から攻守交替できる。いわゆる切り替え、トランジッションができる競技なので、それを原点と思ってトランジッションゲームをやろうとしている。それと運動能力とかキャリアがなくても、体力を高めればそこまでいけるんじゃない?だから、日本一になるためには日本一の体力を作りましょうとさかんに言っていますし、筋トレもやっていますよ。日本一になるためには、日本一の体力をまずは作らないと」

後編へ続く

(2009年9月16日更新)
文 阪本梨紗子
写真 阪本梨紗子、湯浅寛
取材 阪本梨紗子、金武幸宏、井熊里木