どん底からの再起をかけた昨シーズン。慶應は速い展開からのトランジションゲームで次々と勝ち星を重ね、1部復帰、インカレ優勝を成し遂げた。慶應のバスケットを語る上で欠かせないキーワードとなった「トランジション」。このプレースタイルを見事に構築し、チームと司令塔としての役割を担ったのが二ノ宮康平であった(インタビューは2009年9月7日に行われた)。

点取り屋からポイントガードへ

今でこそポイントガードとして知られる二ノ宮。しかし彼の高校時代を知る者は、チームの司令塔というよりは、バリバリのスコアラーのイメージが強いのではないだろうか。インターハイで得点王を勝ち取った経験もある二ノ宮にとって、コート上のディフェンスの布陣や見方の状況を的確に把握し、チームを指揮するポイントガードというポジションは馴染みの薄いものであり、入学当初は自分のプレースタイルを確立するのに苦慮した。加えてチームは加藤(2007年度主将)の怪我などで2部降格。インカレでもベスト8を逃すなど、インターハイを沸かせたルーキーは苦しい状況の下で大学1年目を終えた。
点取り屋とポイントガードの間のジレンマ。それを解消すべく試行錯誤するなかで、転機は昨年のリーグ戦で訪れた。試合を重ねることでドリブルワークと全体を見渡す視野を磨き、慶應の持ち味である速い展開からの攻撃を演出できるまでに成長した。
早大との最終戦(2008年10月18、19日)の後のインタビューで、二ノ宮はリーグ戦全体を次のように振り返った。
「明治に2敗して、『どうにかしなきゃ』って時にチームとしていい感じにまとめられたので。それをきっかけに良い流れができて。一人ひとりが持ち味を発揮できるようになったのでそれがすごく良かったと思います」
明大に2敗したこと(2008年10月4、5日)はチームに危機感をもたらした。小林の不調、岩下の怪我などのトラブルも重なりチームが落ち込む中、続く筑波大戦(2008年10月11、12日)で自らシュートやスティールなどで積極的に攻め、士気を高めたのが二ノ宮であった。

―高校時代は、点をとる仕事をしていたが、大学に入ってポイントガードを任せられるようになりました。今のプレースタイルについてどう思いますか?
「今は、周りに得点をとれる人がたくさんいるんで、周りに気持ちよくプレイさせて、僕が点を取るよりも周りに点を取らせたほうがいいので、周りをうまく活かして。流れが悪い時に自分で点を入れられるようにという感じで、プレイをしています」

―去年のリーグ戦では、筑波戦での活躍が印象に残っています。何か自分の中で変化はありましたか?
「筑波戦の時は周りも調子が良くなかったというのがあって、積極的にいった結果、たまたま入ったんで、いい結果になりました。たまたまっていうのも変なんですけど、結果的に良かったっていうだけで、それでチームが良くなったんで。チームが良くなれば、周りの人がいっぱい得点を取ってくれるので、そういう悪い状況を打開できるプレイヤーになりたいと思います」

―攻めるときの見極めはどのようにしていますか?
「打てるチャンスがある時には迷わずに打てるんですけど、周りが気持よくプレイする、できる環境を作るっていうのが今の一番の仕事だと思っているので、そこを優先させつつ、自分の持ち味もしっかり出していきたいという感じです」

―ボール回しなど、ポイントガードの仕事に自信はついてきましたか?
「みんながどういうプレイをしたいかっていうのが分かるようになってきたので。それは上手くやらせてあげるようなパスを出して、声をかけて動かしっていうことを心がけてます」

「周りのプレイヤーを生かしつつ、自らも攻めるポイントガード」。それが二ノ宮のプレースタイルとして定着していく。ディフェンスからオフェンスへの切り替えではいち早く速攻へ持ち込み、オフェンスが上手く機能しないときには自ら点を取りにいく。そうしたスタイルは慶應がチームとして目指す試合展開とも密接に関係していた。
昨年のインカレで慶應の強みであるトランジションを見せ付けた。動きの止まることのないバスケの特長を生かし、攻守の切り替えにすばやく対応し、速い展開に持ち込むこの戦術には、ゲーム全体を把握するポイントガードが不可欠となる。二ノ宮はインカレを通して得点こそ少なかったものの、その役割を果たし、優勝に貢献した。

「追われる立場」の今シーズン

今季、二ノ宮は怪我からのスタートとなった。電鉄杯(京王電鉄杯)では出場の機会に恵まれず、トーナメントでも中大戦で足を痛めてしまった。そうした苦境の中でもディフェンスなどでチームを支え、トーナメント(関東大学バスケットボール選手権大会)決勝で東海大を下し優勝を果たした。
夏季にはジャカルタ遠征、延世大学(韓国)との交流試合などで実戦経験を重ねた。

―遠征が多かったですが、収穫はありましたか?
「延世って、日本の大学とは違う上手さとか強さがあったんで、3回負けちゃったんですけど、そこについていけたし、こっちが勝ってる部分もいくつかあったので、そこはこっちにとって自信にもなったし、良い経験になりました」

9月にはいよいよリーグ戦が始まる。初戦はトーナメント決勝で競り合った東海大。そして強豪・青学大へと続く。佐々木ヘッドコーチ(HC)は「今年も挑戦者として臨みますよ」と語るが、昨シーズンの慶應の活躍を意識してくるチームも多いことだろう。「挑戦者」であると同時に、「追われる立場」でもある。

―その経験を活かして、リーグ戦への意気込みは?
「リーグ戦は、初戦から強い相手と当たるんで、まずは東海戦で…やることは一緒なんで、初戦で万全な体調で臨むことですね」

飄々と質問に応えてくれる彼ではあるが、インタビュー後に黙々と自主練習に取り組む姿からはリーグ戦への並々ならぬ意気込みが伺えた。

一流のガードになるための条件

二ノ宮はこれまでの大学生活の中でポイントガードとして確実に成長を続けてきた。さらなる期待をするとしたらそれは何だろうか。佐々木HCは昨年のインカレ早大戦の後に、かつて慶應のポイントガードとして活躍した志村(2004年度主将)と二ノ宮を比較して、次のように語っている。

「志村は4年になった時に自分がシュートを打たなかったんですよ。それまでは、今のニノ(二ノ宮)みたいにどんどん打ってた。二ノ宮が力を発揮すると、自分はいつでも打てるけど味方をきちっと使うようになる。でも、今はまだ進行形。まだ頂点には上がってない」

志村は自らの役割をこなすと同時に、チーム全体の力を向上させようとしていた。時にはわざと速いパスを出し、取れない仲間に厳しく当たったという。二ノ宮にはまだそうした「厳しさ」は現れていないように思われる。もちろん「厳しさ」がポイントガードとして二ノ宮を成長させるかは不明であるが、チーム全体のレベルアップを図ろうという気概を持つことが彼自身のレベルアップにも繋がるのではないだろうか。
二ノ宮に対するチームの信頼と期待は大きい。主将の田上も「あいつ(二ノ宮)はすごいですよ。今までいろんな天才を見てきたけど、努力もする天才はあいつですね(笑)」と太鼓判を押すほどである。
慶應の真価が問われるリーグ、そしてインカレ。その中で彼が一流のポイントガードへと駆け上がる様を見守りたい。

(2009年9月16日更新)
文 金武幸宏
写真 阪本梨紗子
取材 阪本梨紗子、金武幸宏、井熊里木