スープバーの具をどうすればたくさんすくえるのかを検証する回、受験国語を作者本人が答えられるか検証する回、そして「誰が言ったか知らないが、言われてみれば確かに聞こえる」空耳アワー――。一風変わった切り口で金曜の夜を彩る、それが毎度おなじみ流浪の番組、『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)だ。1982年の開始からこれまでに約1750回が放送されてきた。

タモリ倶楽部といえば、「ニッチ」「マニアック」「脱力」という形容詞を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。だが、番組ディレクターの山田謙司さんと新川雅史さんは「意識的にそれらを志向しているわけではない」と、インタビューの最初から口をそろえる。タモリ倶楽部を支える制作スタッフが語る、番組作りの本質にあるものとは何か。

1982年の「テレビ」と「タモリ」

タモリ倶楽部の放送開始当時、「テレビ」と「タモリ」は現在とは大きく状況が異なっていた。テレビは当時、深夜番組という存在自体が珍しく、現在のように各局がしのぎを削る状態ではなかった。そしてタモリさんといえば長らく「昼の顔」として愛され続けてきたが、タモリ倶楽部と同年に放送を開始した『笑っていいとも!』が始まる以前は「夜の顔」というイメージが強かった。タモリ倶楽部は、そんなタモリさんの「夜の世界で輝く」個性が出せる番組だった。

やがて、女性の尻を品評するコーナー「五ツ星り」で、山田五郎さんが美術品を解説するように解説する様子が馬鹿馬鹿しく捉えられ注目されるようになった。こうして周囲からシュール・ニッチ・マニアックというイメージを与えられるようになったのでは、と二人は語る。タモリさんが現場で発した「ちゃんとやれよ、仕事じゃないんだぞ」という言葉からくる方向性も大きいのではとも分析する。

同じことを二度しない

タモリ倶楽部では基本的に同じ企画を繰り返すことはない。「明確なポリシーではなく、二回目はつまらなくなるからやらなくていい」と考えるからだ。

同じ企画を繰り返さないのには、飽きてしまったり結末がわかってしまったりして刺激が失われるのを好まない、という考えもある。企画はディレクター・AD・放送作家を含め20人ほどが、平等に企画を出し合い精査する。全員が出しても採用ゼロの時はよくあるという。「毎回型がなくゼロから組み立てるので、毎回が特番だと言われる。大変だけど楽しい、やりがいがある」と新川さんは話す。

スタジオでもロケ

「流浪って言ってるからロケしなきゃないんじゃないですか」。タモリ倶楽部は毎回オールロケで、様々な場所で収録がある。ごく稀にスタジオを使うこともあるが、スタジオの設備は使わず「スタジオ内でもロケ」を徹底している。

破綻も楽しむ

ほかにもこの番組には特異な点がある。「出演者に事前にアンケートを取らない」ということだ。番組の進行をスムーズにするために、事前のアンケートから出演者にコメントさせる、という作りの番組が多い中、タモリ倶楽部はあえて行わない。

山田さんに言わせれば「出たとこ勝負」の演出だ。ここでも、想定内を越えた刺激を求める。たとえゲストがその回のテーマに詳しくなかったとしても、無理に振舞わず「詳しくないよ」と話してもらうほうが面白い。そんな破綻すら楽しむのだという。過去にはスウェーデン人を集めてスウェーデン式野球をしようとした際、雨が降ってしまったため急遽室内でトークをする、という路線変更もあった。

そのため、出演者も自然体であることを大切にしている。「売れっ子タレントが『これでいいんですか、盛り上がってないけど』と言ってきた時、『無駄な盛り上げいらないからやめて』って言う」(新川さん)。出演者側も遊びに来る感覚なのだという。

とはいえ、この自由さは「作り手と演じ手の戦いの場」でもあると新川さんは話す。毎回台本は用意しているが、出演者がいかに面白くアレンジできるか――土台には、タモリさんの愛する「ジャズ」が流れている。

タモリさんは強運

この「ジャズ」的な空気感こそ、番組の核であるタモリさんの持ち味だ。タモリさんのことについて聞いてみると、長い間共に仕事をするスタッフとの間は阿吽の呼吸で成り立つくらいの関係だという。「タモリさんってポジティブで、『やってみないとわからないからやってみよう』と言ってくれる。野球そのものに興味がなくてもものまねプロ野球なら(「ものまねプロ野球オールスター戦」(2018年12月24日放送))、と企画が成立する」(山田さん)。企画に対してタモリさんが要望や意見を言うことはほとんどないそうだ。

身近に接し続けてきた二人が挙げるタモリさんの凄いところは、その「強運ぶり」だと語る。「世界初! 噴水のテーマパークが誕生!? 相模原FunsuiLand(2018年8月31日)」で、10分の1で当たりが出る黒ひげ危機一髪噴水を、タモリさんは3連続で当てた。「美味しい出来事が巡ってくる運を持っている」と二人は語る。

全世代に見てほしい

テレビ番組の指標となる視聴率、二人は気にしているのだろうか。「取れたらいいなと思うけれど、目標にはならない」と話す。「視聴率を取ることを目指したら番組が変わってしまう。例えばCM前に『CMのあと大混乱!?』とテロップを入れる。そんなことが起こるわけがないのに(笑)。視聴率を取ろうとするあまり、本質でないところでこねくりまわすことはしない。内容の面白さを追求しているので、見る側からすると裏切られた感がないのでは」と新川さん。

毎回あらゆるテーマを扱ううえで「全世代に見てほしい」という。特定の層だけに向けた番組作りをしない。意識すると偏ってしまうから」。番組を長く続けるうえで、いい意味で適当さをもって力んだり頑張ったりしない。見えてきたのは「ナチュラルな面白さ」を求め続ける姿だった。

(杉浦満ちる)