メディアの構造が変化をしている現在、NHKはSoLT(Social Listening Team)というチームを立ち上げた。SNSをニュース生産に活かす新たな取り組みで、2‌0‌1‌3年10月に始めた。

具体的には、近年急速に発展しているソーシャルメディアを24時間365日分析していくことで、記事や取材にそれらの声を取り入れている。

始まったきっかけは2011年3月に起こった東日本大震災だったと、チームのリーダー足立義則さんは振り返る。当時ニュースデスクを務めていた足立さんは、同時にTwitterの管理なども行っていた。震災当時、Twitterのタイムラインが大量の情報であふれていたのを目の当たりにした。

深刻な状況を伝えるツイートは数多くあった。しかし当時、それらをニュースで実際に使うためには、信憑性を確認する技術、ツイートを見つける人員、ニュースに反映するルートのすべてが不十分だった。そのため実際に取り扱うことのできたものはわずか数件に限られた。「多くの情報を救えなかった」。この反省から、今後起こるかもしれない大災害で流れる情報に対応するため、チームという形で新たな体制が作られた。

東日本大震災は同時に、それまでのマスメディアとソーシャルメディアの間の溝を生み出した。福島第一原子力発電所の事故では、誤った情報が拡散し混乱を招いた。根拠のないソーシャルメディア上の言説が力を持ち、一方のメディアは情報の隠蔽に加担しているのではないか、報道に政府が介入しているのではないかなどの不信感を持たれていた。誤った情報に対処しなければ、マスメディアへの不満は高まるばかり。それだけでなく、誤った情報を信じる人がいることで、人々の生命財産に被害が及びかねない。これらを解決することにも、この取り組みは不可欠だと考えられた。

実際の現場では、常時3~4人体制でソーシャルメディアのチェックを行い、記者へ伝達する体制がとられている。このチームからの情報を得た記者は、実際に現地に赴くなどして取材を行う。このチームにはNHK社員だけではなく、日ごろからSNSに慣れ親しんでいる大学生なども加わっており、常に発展を続けるSNSへの対応をしている。

ただ、足立さんはオープンなSNS上の情報を追うだけでは不十分だと感じているという。根拠のない情報の多くは、LINEなどのクローズされたメディアを通して生産され、拡散される。オープンな場に出てくるのは、生産されて時間が経ってからこぼれ落ちたものでしかない可能性もある。こういった状況に対し、いかに迅速に対応をしていくのか考えていく必要があると話す。

従来はメディアが取り上げるべきだと思う情報を発信する傾向があった。だが今後はメディアがウォッチャーの関心を察知し情報を扱う方向に変わっていく。そんな大きな変化がすでに始まっている。

(金森悠馬)