ピカソ、ゴッホ、モネ……。美術に詳しくなくても一度は聞いたことのある「全員巨匠」の美術展が、今月11日まで三菱一号館美術館(東京都千代田区)で開催されている。この「フィリップス・コレクション展」は、昨年創立100年を迎えたアメリカで最初の近代美術館から75点が来日して実現したものだ。のちにニューヨーク近代美術館(MoMA)が設立され、第二次世界大戦後にかけてフランス・パリからアメリカ・ニューヨークへと美術の発信地が移行していく上で、フィリップス・コレクションの存在はその第一歩とも言える。

美術館を設立したダンカン・フィリップスは、パリで見た印象派に魅了され、収集を始めた。元々批評家だった彼の転機になったのは父と兄の死。二人を称えるため、ワシントンの地でヨーロッパのモダンアートを紹介するギャラリーを創設すると決意した。そこから30年、美大生だった妻・マージョリー・アッカーとともにコレクションの購入を続けた。

「芸術の大きな恵みは、二つの感情を促してくれることだ。再びめぐり来る人生の喜びを忘れずにいること、芸術家の夢の世界へ逃避したい気持ちがあること」。美術展の導入部に記された彼の芸術観は、家族の死、世界恐慌や戦争といった混乱の時代を乗り越えた重みを感じさせる。二月革命を描いたドーミエの《蜂起》には、同じく戦乱の時代を生きた人として共感を覚えていたという。

フィリップスは自身の審美眼に基づいて美術品を収集していた。新しい作品を手に入れるために一度手にした作品を売却したことや、寄贈されたコレクションの一部を断ったこともある。今回の展示では、手に入れた年順に作品が並べられており、通し番号を追っていくと、作品が集められた前後関係がわかるようになっている。

初期の収集は印象派に始まる。冒頭に飾られたモネの《ヴェトゥイユへの道》は、フィリップスが32歳の時、最初に手に入れた作品だ。当時は19世紀の風景画を好んでおり、この絵画もモネの旧居に通じる道を描いたものだ。

このコレクションの面白さは、フィリップスにとってモダンアートは同時代の生きた芸術であったということだ。生まれ変化していく美術を、一度は拒絶し、のちに受け入れていく様子も残されている。1913年に行われた近代美術の展覧会「アーモリーショー」にて、彼は批評家としてキュビスム以降のモダンアートを批判していたが、1928年には収集に至っている。新しい作品は「実験室」と称された場所に展示することで、パトロンとしての役割も担っていた。

批評家であった彼の言葉は会場のあちこちで見ることが出来る。芸術家に対する愛がこもった批評を見ていると、フィリップスと一緒に会場を回っているかのように錯覚さえする。

「絵画は、私たちが日常生活に戻ったり他の芸術に触れたりしたときに、周囲のあらゆるものに美を見出すことができるような力を与えてくれる」。美術を通じて、新しい見方を手に入れないか。

(小宮山裕子)

フィリップス・コレクション展

2018年10月17日(水)~2019年2月11日(月・祝)
会場:三菱一号館美術館(東京都千代田区)
時間:10時~18時 ※入館は閉館の30分前まで(祝日を除く金曜、第2水曜、会期最終週平日は21:00まで)
休室日:月曜日(但し、祝日・振替休日の場合、会期最終週とトークフリーデーの10/29、11/26、1/28は開館)、年末年始(12/31、1/1)
料金:一般1700円 高校・大学1000円 小・中学生500円(第2水曜日17時以降/当日券一般(女性のみ)1000円)