『東京防災』をご存知だろうか。東京都が作成し、2015年9月1日時点で都内在住の全世帯に配布された防災ブックである。行政機関が作成した防災ブックと聞くと堅い本を想像する方が多いだろうが、『東京防災』は全てのページが黄色で、イラストを多用するなど、インパクトのあるデザインが特徴だ。

防災対策を一冊の本として取りまとめ、都民に配布する、というこの取り組み。当時の都知事だった舛添要一氏が、スイス国民に配布された本『民間防衛』から着想を得た。

東京都総合防災部の国府田靖さんは「災害時には、公助、自助、共助の三者が一体となって取り組むことが重要だ」と訴える。「公助」とは、行政職員や自衛隊、消防庁、警視庁などが行う救出活動を指す。「自助」は自らの力で生き延びること。「共助」は近所の人など一般人同士で助け合うことである。

阪神淡路大震災では、生き埋めや閉じ込めに遭った際に自助、共助によって助かった人が9割以上を占めた。そこで『東京防災』では、自助、共助を理解してもらい、日頃からどのように備えるべきか、災害時にどういった行動をとるべきなのかをまとめている。

近年、首都直下型地震が30年以内に高い確率で発生すると言われている。防災への正しい知識を得た上で、家具転倒防止策、食料備蓄など、実際に行動に移すことの重要性が高まっている。『東京防災』では災害時の対応方法を網羅的に解説しつつ、今すぐに実践すべきことに、「今やろう」というマークがついている。

国府田さんは「防災とは人命、財産に関わるとても大切なことであり、それを守ることが私たちの使命である。事業を進めるにあたっては、前例踏襲ではなく常に課題と向き合っていかなければならない」と語る。東京都では都民に防災意識を広く持ってもらうため、日々新しい試みが行われている。くらしに密着した災害対策をまとめたハンドブック『東京くらし防災』や、『東京都防災アプリ』も作成した。

今年、日本各地は大きな災害に見舞われ、いつどこでまた災害が起こるか分からない。この状況を他人事と思わず、今すぐ災害に備えることが、自分や大切な人を救うことに直接つながる。まずは防災の第一歩として『東京防災』を手に取ってみてはいかがだろうか。

(高根奈々)