《東京いろは》『東京人』編集長に聞く、「東京を描く」とは

東京いろは

『東京人』編集長の高橋栄一さん

東京には様々な味わい方がある。街を歩くと立ち現れる、建築や食べ物、生活様式――。江戸時代から培われてきた庶民文化が重層的に流れ、今に生きている。

月刊の雑誌『東京人』は、ひとことでは表せない東京の文化的側面を私たちに見せてくれる。誌面では、毎月様々なテーマのもとにその道の専門家が魅力を語る。1986年の創刊以来、『東京人』は30年以上に渡り東京を描き続けている。

東京への関心

『東京人』はもともと、東京都の出資により生まれた。現編集長の高橋栄一さんは、「70~80年代は東京という都市に対する関心が高まっていた時代だった」と話す。

要因の一つは、当時の鈴木俊一都知事が掲げた「マイタウン東京」にも反映される世相だ。1945年から60年ごろにかけて、地方から東京に急激に人口が流入した。彼らは若くして故郷を離れ、やがて東京に定住し世帯を持った。「僕が小学校にいたころは、お盆になると皆両親について帰省するから遊ぶ友達もいなかった。それくらい地方から来た人が多くいた」。ところが移住して30年ほどが経過した80年代ごろ、地方の故郷にいる両親が亡くなる人が出てくるようになる。「両親が亡くなると故郷が遠くなってしまう。すると実感するんです。『帰るところがない、東京で死ぬんだ』と」。マイタウンとは「自分の街に誇りを持とう」という意味があり、東京をもう一つの故郷として、その良さに目を向けようという狙いがあった。

また同時期には、「江戸東京博物館」設立事業が進められるなど、「江戸東京学」が学際的に活発だった。「江戸東京博物館の特徴は『江戸東京』という言葉ですね」と高橋さん。歴史学的に見れば、江戸と東京は近世と近代の分かれ目で、幕藩体制から近代国家になる社会革命によって分断されているように見える。しかし、庶民生活史を紐解けば、江戸から東京になっても庶民文化は連続している。こうした庶民生活の連続性をコンセプトに、江戸東京学というジャンルが生まれ、政治や権力ではなく、建築や芸能などの庶民文化にスポットが当たるようになった。

東京の特色って何だろう

いざ眺めてみると、東京には京都ほどのハイカルチャーはないが、江戸時代から脈々と続く庶民文化が息づく。政治・経済の中心として、400年以上日本の中心であり続けた江戸・東京は今も昔も様々な人が往来してきた。最初は大名たちが江戸に来て、彼らの消費に応える商人が集まり、そして文化が形成されてきたのだ。高橋さんは「世界的大都市は皆そうだけど、いろんな地域からいろんな人が集まってダイバーシティが生まれる。それが面白いし、今後もそうあってほしい」。また、「東京にいればいつでも素性を表さずに匿名になれたり、逆に実名になれたりするのを選べる。あと、特殊な本を扱う本屋みたいに、地方都市では成り立たないような隙間のビジネスでも埋められるのが東京ならではだと思う」

馬鹿は考えるな

『東京人』を作るにあたって、編集者は企画を考えるのではなく、その道の優秀な人が考えることを集めてくる役割なのだと高橋さんは話す。「素人が考えたって面白くはならないんです。街に長くかかわっている人が必ずいるから、そういう人を探して知恵と知識を借りる」

例えば、吉原400年に際して特集を組んだ号では、企画にあたって渡辺憲司立大名誉教授との打ち合わせで組み立てていったという。特に渡辺教授とタレントのタモリさんが対談するページでは、「ブラタモリで流れなかった雑談部分をやろう」という話になったのだという。論文のような硬さを除きつつも、専門的で深い内容に踏み込むのが『東京人』の特色と言える。

東京人が見た変化

創刊から今にかけての約30年、東京は何が変化しただろうか。高橋さんは大きな変化の一つに、パソコンや携帯電話の普及による行動様式の変化を挙げる。「初めての街でお酒を飲むにも、前は当たり外れがあったけど、今はそれがネットでわかっちゃう。だから新しい良いお店を見つける喜びや楽しみがなくなっちゃった。あと、一度で用事を済ませなくても後から何度でも連絡できるから、時間を守らなくなるし会議しても全然話が進まずに終わる、なんてこともある」。ITの発展によって、心や文学における変化は大きかったと高橋さんは指摘する。情報があふれることで共通の話題が少なくなり、趣味の多様化が進んだ。

しかし、かえってITの発展に逆らう現象もあると語る。「かつてはITが発展すれば、サテライトオフィスへ向かうだろうと予測されていた。でも通信手段がどれだけ発達しても、日比谷のミッドタウンだって新しいオフィスは遊びの空間を作ってお茶を飲みながら会議する。ダイバーシティのなかでイノベーションを生み出す方向に向かっているのでは」

「東京人」は「江戸っ子」とは違う

高橋さんによれば、「東京人」は「江戸っ子」とは違うという。定義が厳格な江戸っ子に対して、東京人は東京で暮らす人も通勤や通学する人も、何らかの形で関わりがある人は誰でも当てはまる。

「東京に関わる人が、身の回りにある東京に興味を持ち好きになって、もっと知りたいと思うようになる。その循環が東京に関わる人にとっても行政にとっても幸せなこと。そういう幸せづくりをし、同時に文化や芸術をより豊かにしたい」と高橋さんは語る。

* * * * *

東京は広く、そして深い。あなたも「東京人」として東京の良さを味わってみよう。

(杉浦満ちる)


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