「世界選手権のギリシャのバスケを目指している――」。現全日本メンバーで205㌢の竹内公輔のようなビッグマンでも40分間走りきり、チームディフェンスを基盤としたバスケ。それが佐々木HCの目指したものだった。

 志村(現東芝)ら『ゴールデントリオ』を失った昨季は苦しんだ。リーグ戦では黒星を重ね、拓大との入れ替え戦を経てどうにか一部残留。連覇を狙ったインカレは6位に終わった。春から構築を図ったチームディフェンスは、最後まで機能しなかった。

 そして迎えた今季、慶大は見事に蘇生した。竹内公・酒井は『ディフェンスの鬼』とも称された。昨季はプレーに迷いの見られた加藤、ルーキー小林大や香川、小松(総3)もフロントコート陣同様に安定したパフォーマンスを見せた。チームディフェンスが結実したのは、オールジャパン・日立戦。この一戦で、竹内公は完全にインサイドを支配。加えてチームの激しいディフェンスが奏功し、日立の攻撃を封じ込めた。最後はファウルゲームで追い上げられたが、内容的には余裕のある勝利。学生チームのトップリーグからの勝利は19年ぶりの快挙だった。

 だが、そのチームでも超えられなかったのが東海大だ。リーグ戦開幕以降の慶大の公式戦(六大学リーグ除く)の戦績は18勝4敗。この4敗のうち、実に3敗が東海大から喫したものである(1敗は青学大にリーグ戦で喫した)。「慶大にとって永遠の課題であるミスマッチが理由の一つ。相手の大きいセンターを止められなかった」と、佐々木HCは嘆く。竹内公にとっては、マッチアップ相手である井上は与しやすい相手だった。だが、酒井の相手は身長差約 15㌢の竹内譲。『ディフェンスの鬼』も、ミスマッチには勝てなかった。ミスマッチを解消するために構築されたチームディフェンスだが、結局最後までミスマッチを克服できなかったのが残念でならない。

 来年は全てが振り出しに戻る。慶大にとっては竹内公・酒井が卒業するが、状況はどこも似通っている。特に『二冠』を果たした東海大は高校全日本経験者の5人がチームを去る。近年稀に見る大混戦が予想される状況だ。選手全体のサイズも小さくなる中、重要となってくるのは『体力』ではないだろうか。そうであれば、今季までに既にそのベースを作ってきた慶大にとっては光明を見出せる。来季の栄冠に期待したい。

(羽原隆森)