岸博幸教授に学ぶ スマホ依存に潜む危険

デジタル社会の生き方を指南する岸教授

朝、目が覚めたらまず何をするだろうか。前日から溜まっているLINEやTwitterの返信や、友人のInstagramの投稿のチェックなどのために、多くの人が無意識にスマートフォンへ手を伸ばすだろう。
慶大大学院メディアデザイン研究科の岸博幸教授は、スマホの利便性の裏にはデメリットが潜むと主張する。

第一に、集中力の低下が挙げられる。空いた時間にスマートフォンを使うことで、脳が常に新しい情報を欲しがるようになってしまうのだ。

将来、定型的な仕事がロボットやAIに取って代わられると予想されている。そのような現代において大切なのは、個人がクリエイティブな考えを持つことであり、深く集中する能力が必要とされる。しかし、スマホ依存はそのような能力の発達を阻害するという。

「スマホ依存により、深く集中して考えることができなくなってしまうのは、もったいない」と岸教授は主張する。集中して仕事をする時間を増やすなど、普段の行動を意識的に改善することが、重要であるという。

第二に、社会人によくあてはまるのが、仕事をした気になってしまうということだ。

「先方に会合の日程をメールするだけで、仕事をした気になってしまいがち。しかし、これでは生産性は上がらない。イノベーションが求められる現代であるのに、生産性の向上とは正反対の行動をしている人が多い」と岸教授は話す。

マルチタスクを強いられる現代において大切なのは、優先順位の低いことは手早く終えてしまい、それで満足しないように心掛けること。そして、生産性の高いことに時間を割くこと、この二つであるという。

そもそも、スマホ依存の弊害を考える前段階として「世の中がゆるくなっている、ということを認識する必要がある」と岸教授は語る。近年、働き方改革が叫ばれている中で、「休む時間も惜しんで何かに打ち込むことは悪である」という風潮が存在する。しかし、一つのことに集中して不断の努力を絶やさないことこそが大切なのだ。また教授は、今の若者は大人しく、受け身になる傾向にあり、これもスマホやデジタル化の影響が大きいと指摘する。SNSは、私たちに様々な情報を与えてくれる。これらのコンテンツによって、私たちは好奇心を満足させてしまうのだ。

「スマホは、人間の自己実現をすごく簡単にした」と岸教授は語る。例えばInstagramでは、写真を投稿することでたくさんの「いいね」を得ることができる。誰もが気軽に情報を発信し、承認欲求と自己実現欲求を簡単に満たすことが可能となったのである。

かつて人々は、自分の趣味を掘り下げることによって自己実現欲求を満たしていた。しかし、デジタル化によって自己実現が容易となったため、物事を能動的・創造的に考える人が減ったのだ。

では一体私たちは、デジタル機器にあふれた現代をどのように生きているべきなのか。岸教授は、「自我作古の精神の下、クリエイティブにデジタル世界と向き合っていくべきだ」と語る。

福澤諭吉先生の言葉の一つであり、慶應義塾の信条でもある「自我作古」。「これから己の実践しようとすることは前人未到の新しい分野であるけれども、予想される困難や試練に耐えて開拓にあたろうではないか」という意味である。

スマートフォンがもたらす世界に依存しがちな私たちに、求められていること。それは「自分で新しいものを創造しようとする」意識を持ち続けながら、何かを発信していくことなのだ。

(菊池真由子)


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