どのスポーツにおいても心の重要性は高い。いくら技術や体力があったとしても最終的には心が体を動かすからだ。今回はスポーツに代表される心の重要性についてスポーツドクターの辻秀一氏にお話を伺った。

 まず、スポーツ心理学には日本型のデータの研究などを行うものと、欧米を中心に行われている実践的なものがある。氏は後者に属し、その中でカウンセリングやメンタルトレーニングを行っている。

 例えば「ポジティブシンキングが大事だ」とよく言われる。では、実際どうすれば良いのだろうか。「世の中には変えられるものと変えられないものがある。過去や他人など変えられないものに文句を言ってもそれで損をするのは自分。それはもったいない。相手は何も変わらない。変えることのできる自分の考え方や態度をコントロールすることでポジティブにするのです」。

 しかし、このような知識があるだけでは足りない。習慣にするには本人の意識が重要なのだ。そこで氏はトレーニングを以下の6段階にメソッド化している。1.心の存在を知る、2.心についての知識を整理、3.心の価値を感じる、4.自分自身の問題として気付く、5.心をコントロールする術を知る、6.術を実践する。これらの要素をバランスよくトレーニングし、常に持ち合わせることが目標となる。

 このような心の持ち方はスポーツ以外の世界とも密にリンクする。氏は「スポーツは人間社会の縮図だ」と言う。スポーツはやる気やチームワークなどの重要性が最もわかりやすく現れるものであるからだ。また、「スポーツは文化(culture)だ」とも言う。

「日本では体育の日と文化の日、体育会系と文化系というようにスポーツ(体育)と文化が分けられる傾向があるが、スポーツは人間を健康的に耕す(cultivate)するものだ。よく『耕された』人間はQOL(Quality Of Life・生活の質)が高い。QOLを高めるには元気、感動、仲間、成長が必要。スポーツにはこの全てが含まれる。スポーツに触れるということは日常を豊かにすることにつながるのです」。この考え方で氏は音楽界やビジネス界でもスポーツ心理学を応用しているのだ。

 読者の中には受験生も数多くいることだろう。そこで氏に受験当日のアドバイスを頂いた。「とにかく今に生きること。変えることのできない周りや過去は関係ない。今を表す英語に”present”がある。今という贈り物を大事にすること、つまり今、自分にできることに集中することです。野球のイチロー選手や松井選手、ゴルフの宮里選手など、一流選手は常にこのことを考えているのです」。

 多くの受験生が近い将来、大きな”present”を手に入れることに期待したい。  

(湯浅寛)