ヴェロネーゼ(本名パオロ・カリアーリ《女性の肖像》、通称《美しきナーニ》1560年頃 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado /distributed by AMF-DNPartcom

5月30日から来月3日まで、国立新美術館(東京・六本木)で開催されている「ルーヴル美術館展 肖像芸術―—人は人をどう表現してきたか」。古代メソポタミアから19世紀ヨーロッパに至るまでの多種多様な肖像作品が来日し、まさに「ルーヴルの顔」が一挙に集う。展示は肖像芸術の社会的役割とともに、その表現上の様々な特質を浮き彫りにするものとなっている。

展示室はテーマごとに区切られており、プロローグ「マスク―肖像の起源」に始まり、第1章「記憶のための肖像」、第2章「権力の顔」、第3章「コードとモード」、エピローグ「アルチンボルド―肖像の遊びと変容」で締めくくられる。

アントワーヌ=ジャン・グロ《アルコレ橋のボナパルト(1796年11月17日)》1796年 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Hervé Lewandowski /distributed by AMF-DNPartcom

目玉の肖像の一つとなっているのが、ナポレオンの肖像群である。一介の軍人からフランス皇帝にまで上り詰めたナポレオンは、自身に対する大衆のイメージの操作として肖像を利用した。フランス皇帝にふさわしい人物であることを巧みにアピールするために、ナポレオンの相貌や装束は、今でいう宣材写真のごとく決まっていた。彼がどのように上手くプロパガンダを行ったか、その一端を覗き見ることができる。

ジュゼッペ・アルチンボルド《春》1573年 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Jean-Gilles Berizzi /distributed by AMF-DNPartcom

エピローグで展示されているアルチンボルドの《春》も見る者の目を引きつける。アルチンボルドは後期ルネサンスにあたるマニエリスム期(※注)に活躍した画家である。マニエリスム期の芸術家たちは、ルネサンスで頂点に達したと思われた美を崩し、それを打ち破るために苦闘した結果として、この時期には数々の独創的な作品が生まれた。《春》もまたその一つで、80種類以上の植物から構成されている特異な肖像は、ユーモアにあふれており、見る者を魅了する。

ほかに展示されているのはルーヴル美術館の全8部門を代表する約110点の肖像作品で、足を止めて見入らずにはいられない傑作ばかりだ。美術についての見識が深くない方々でも十分に楽しむことができるだろう。本展が芸術の世界に興味を持つきっかけになるかもしれない。

ちなみに、オフィシャルサポーターとして俳優の高橋一生さんが音声ガイドを担当する。作品の概要を丁寧に解説してくれるので、様々な角度から展覧会を楽しめるようになっている。各々の時代や地域の傑出した芸術家たちが趣向を凝らして生み出した肖像と、時空や空間を飛び越えて向き合うという不思議な感覚をぜひ味わってみてほしい。

(貫洞晴輝)

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※注:マニエリスム

16世紀中頃から末にかけての後期ルネサンスにおける美術様式。それまでのルネサンスの様式に反して、難解な象徴主義、幻想的な空間表現、洗練された技巧的・作為的な作品群が特徴。

ルーヴル美術館展肖像芸術——人は人をどう表現してきたか

2018年5月30日(水)~9月3日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室1E(東京都港区)
時間:10時~18時(毎週金・土曜日、8月27日(月)、8月29日(水)~9月2日(日)は、21:00まで開館/入場は閉館の30分前まで)
休室日:毎週火曜日
料金:一般1600円 大学生1200円 高校生800円(※慶大の学生・教職員は学生証または教職員証の提示で200円引き)