平安古筆を思わせる優美で繊細な書を味わえる展覧会、「やまとうたの風趣」が大田区立熊谷恒子記念館にて8月26日(日)まで開催されている。

熊谷恒子は、昭和期に現代女流かな書道の第一線で活躍した書道家である。この記念館は南馬込にあった彼女の旧居を改装し、1990年に開館したもの。閑静な住宅街の中にある階段を上った先では、恒子の像と趣のある建物とが来館者を出迎える。

階段を上った先が記念館の入り口

靴を脱いで上がり、木の扉を開けた先は、絨毯が敷かれていて落ち着いた雰囲気の展示室である。冷房が効いた涼しい空気は、駅から8分ほど歩いた後の身に染みわたる。室内にはテーブルやソファが置かれており、恒子の住んでいた当時を感じられるようになっている。

「やまとうた」とは

今回の展覧会の題にもなっている「やまとうた」とは、五・七・五・七・七の31音で詠まれる和歌のことである。古今和歌集の仮名序において、紀貫之が「やまとうたは人の心を種としてよろづの言の葉とぞなれりける」と述べたのが初めである。この部分を題材にした「やまとうたは」の作品を見ると、恒子の書の特徴がよくわかる。

古今和歌集仮名序を題材にした作品「やまとうたは」

初めの「や」や2行目の「こゝろ」が濃くなっているように、墨つぎを効果的にすることによって強弱をつけている。遠くからでもはっきりとわかる立体感が魅力だ。また、文字をつなげて書く連綿という書法も多く用いられており、流れるような線の美しさが目を引く。