語学といえば、塾生の多くは第2外国語までで学習を終えるだろう。だが、マイナーな言語を好んで学ぶ人も存在する。文字通り、手あたり次第語学を学習する塾生、田口智大さん(政4)だ。タイ語、ベトナム語、トルコ語にペルシア語。さらには古代エジプト語、古典ギリシア語、アッカド語、日本手話……これらは彼が今年の春学期に履修している言語の一部だ。「気長にやっている」と、趣味のように語学を鍛える彼は、もはや「言語ヲタク」である。

彼は語学を極めた結果、今年「タタール語」で快挙を打ち立てた。「第6回国際タタール語・タタール文学オリンピック」 で1位に輝いたのだ。

タタール語は、ロシア連邦に属するタタールスタン共和国を中心に、中央アジア、中国西部などの地域で話されている言語だ。

田口さんがタタール語を始めたきっかけは、高校3年生のとき、タタール語講座を受講したことだった。1年間の受講後、他のタタール語学習者との交流などを通じて勉強を続けた。マイナーな言語であるがゆえに、日本国内のタタール語界隈はとても狭い。オリンピック出場のきっかけも過去に同じ大会に出場した人々からの勧めだった。

オリンピックはWEBでの予選後、タタールスタン共和国で本選が行われる。ロシア国外の参加者でも、ほとんどは在外タタール人などタタール語母語話者だ。全くの「部外者」である田口さんは異色の存在だった。しかし、彼はとても歓迎されたという。渡航や滞在、食事にかかる費用が、タタールスタン負担という優遇ぶりだ。

試験は筆記試験や口述試験、詩の朗読など多岐にわたる。試験の合間には、現地のテレビに出演したこともあった。「自分が一番できなかったと思う」と言いつつも、見事1位を受賞した。

タタール語はもちろん、多くの言語を学んでよかったことを聞いてみた。すると「旅行先のホステルで、様々な国の人とその人の母語で話すことができること」と答えた。英語を介して話すより仲良くなれるそうで、交流が続く人もいる。

将来について尋ねると、「博士課程に進んで、いずれは研究職に就きたい」とのこと。記述言語学に興味があり、文法の研究をしてみたいそうだ。

「マイナー言語を学んで何の役に立つのか」。そう思う人もいるかもしれない。だが田口さんのように、言語を習得することでしか知ることができない世界も確かにある。

(高井日菜子)