日独外交支える「通訳官」 言葉のプロフェッショナルの仕事

カナダで2日間にわたって開かれた主要国首脳会議(G7シャルルボワ・サミット)が9日、閉会した。

山頂(サミット)に登るのが各国首脳であるとすれば、随行員の存在なしにその道中を乗り切ることはできないだろう。外務省には、省が指定する29カ国語のそれぞれに担当の「通訳官」がおり、外交交渉における首脳間のパイプ役を担う。欧州局中・東欧課主査の大西知恵さんがその一人だ。

オーストリア、スイス、リヒテンシュタインを含むドイツ語圏の国々を担当する課に所属する。通常業務では主にドイツ内政の動向を探り、日独間交渉の下準備を行うが、要請があればドイツ語担当通訳官として自身が外交の最前線に派遣される。2015年にドイツで行われたG7エルマウ・サミットや今年2月の日独首脳会談では、安倍晋三首相の傍らで通訳を務めた。

通訳としては、訳の正確さとともに「スピード」を重視していると話す。特に、G7サミットのように複数国の首脳が集う場で行われる2国間会談は、時間が限られている。「足を引っ張らないよう、速く正確に訳すことを心がけています」

事前に会談相手の過去の会見動画などを視聴し、その人が多用する言葉や話し方の癖を把握。ドイツ語のテレビニュースを毎日復唱し、聞き手の負担とならないようネイティブの発音、口の動きを身体に記憶させている。

通訳官が必要とされるのは、交渉の場だけではない。要人往来に際して催される晩餐会では、その知識量が試される。食事の説明を訳すことが求められるほか、会話中にどのようなテーマが飛び出すか予測できないからだ。

最近では、「(本の)背表紙」をとっさに訳すことができなかった。言い換えで対応したが、「まだまだ勉強不足」と悔しげ。映画や本に加え、ドイツにいる友人とのWhatsApp(メッセンジャーアプリ)でのやり取りから、日常的に「生きたドイツ語」に触れることを大事にしている。

ドイツ・ハンブルクで小学4年から中学3年までを過ごした。中学校の3年間は現地校に通い、「日々ドイツ語を扱うことで、かえって日本語への関心も高まった」と話す。「気づけば漠然と日独の架け橋になりたいと思うようになっていました」。大学在学中に交換留学で再びハンブルクに滞在し、その思いはより強まった。

外務省入省後は、在フランクフルト日本総領事館、日韓経済室を経て現在の所属へ。自身が訳した言葉がそのままドイツの新聞に載り、通訳官としての責任の重さを感じた。

「格調高い言葉を身に付けたい」と決して今のパフォーマンスには満足していない。「ドイツ語は文法が難しいが、規則性がある。融通が利かない部分があるけれど、論理的でルールを重んじるドイツ人に似ています」

ちなみに、「背表紙」はドイツ語で「der Buchrücken(本の背中)」。なるほど、筋が通っている。

(広瀬航太郎)


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