三田キャンパス東門沿い、東京タワーへ通じる桜田通りを横道に入ってすぐ。懐かしげな路地裏の一角に「芝の家」はある。
芝の家は、港区と慶大が共同運営するコミュニティづくりの拠点。昨年10月に「昭和の地域力再発見事業」の一環として開室した。昭和30年代のような、あたたかい人と人とのつながりを再生することを目指している。
一軒家の引き戸を開けると賑やかな空間が広がっていた。遊びに来ていた小学生に「芝の家のどこが好き?」と尋ねると「みんなで遊べること!」と即答。芝の家にはベーゴマや折り紙などからタッチパネルで絵が描けるパソコンまで、時代にこだわらず、様々な遊び道具がそろっている。「2月から関わり始めたが、もう身長を抜かれた子もいる。子どもたちの成長がわかって楽しい」とスタッフの石川楠緒子さん(文4)。スタッフも交え、のびのびと遊ぶ子どもたちで終始活気ある雰囲気に包まれていた。主にお年寄りを対象に開かれている曜日もあり、曜日によって家の雰囲気も様変わりするという。
スタッフは主に塾生中心。開室当初、子どもやお年寄りと接する機会の少なかった塾生が多かったこともあり、各々異なる思いをもって訪れる人たちへの対応が難しかったという。しかし、毎日閉室後、時間をかけて話し合うことでスタッフそれぞれが経験を積み上げてきた。慶大教養研究センター講師で芝の家スタッフの坂倉杏介さんは「来てくれた人を受け入れることが大切。そうすると、その人は自分を表現できるようになる。これはコミュニティづくりの第一歩といえるでしょう」と話す。スタッフが訪れた人ひとりひとりを尊重して接することが大前提だという。
芝の家の取り組みは家の運営だけにとどまらない。たとえば、お年寄りにとって休む場所のない道は歩きにくい。街に縁台を増やせば、お年寄りも気軽に外出できるようになるのではないか、という発想から生まれたプロジェクトが「メディア縁台」だ。現在、縁台のデザインを募集しているそうで、家の壁には縁台の絵がたくさん貼ってあった。縁台で休憩する人同士、交流のきっかけになればとの思いも込められている。メディア縁台のような地域の環境づくりをはじめ、大学の研究機関でもある点を生かし、多様な活動を進めている。
人間関係が同世代の者同士に限られがちな学生だが、様々な世代の人と接することで新たな発見もあるだろう。三田キャンパスから徒歩7分。ぜひ一度足を運んではいかがだろうか。
(西原舞)