「海外インターンシップから地域選挙まで」。彼の塾生時代を形容するには、これがフィットしているだろう。海外インターンシップ、議員インターンシップを日本で浸透させた仕掛け人が佐野哲史氏だ。
大学入学と同時に、国際学生NPO「AIESEC」(アイセック)慶應義塾大学委員会に所属した。AIESECとは、世界中にグローバルなネットワークを持ち、海外インターンシップ事業を通して、次世代の国際社会を担う学生が自己の可能性を発展させるための場だ。現在は107の国と地域にまたがり、1100大学以上に委員会を持ち、約3万5000人の学生が活動を行う世界最大規模の学生NPO。日本国内においても、主要25の大学の委員会で約1000名の学生が活動を行っている。
大学2年生でAIESEC慶大委員長を務め、海外のAIESECとの交流を深めていく中で、新鮮に映ったのが、海外インターンシップだ。「異文化の中で働くことが真の国際理解につながる」と考えるようになった。日本の多くのAIESECでは当時、国際交流イベントやスタディーツアーなどを主な活動としていた。その背景には、そもそもAIESEC内に海外インターンシップの意義が十分浸透していなかったことがある。
大学3年生の時に持ち前の向上心と積極性から、AIESECジャパンの代表を務めると、2年間かけて北は小樽から南は長崎まで全国26委員会約1500人のメンバーに直接働きかけ、海外インターンシップの意義を浸透させ、再導入を図ることに成功した。そんな中で、とりわけ苦労したことは、それぞれの組織がもつ独自性を尊重しつつ成果を出す事業体として全体をまとめ上げていくことだったという。
AIESECの活動に奮闘していた大学3年生の春、続々と新しいことを始める仲間たちを目の当たりにする。何気なく始めた選挙ボランティアの活動では、旧民主党に所属していた長妻昭氏の選挙事務所で選挙活動の支援をした。「ものすごく忙しかったけど、率直に楽しかった」と当時を振り返る。大学の友達など30人位を誘い共に活動していく中で、自分も友達も政治に関心をもつようになり、次第に社会の見方が大きく変わっていったという。
選挙ボランティアを通して、若者達を政治へコミットさせる可能性があると考え、彼らにとって政治を「身近なものにする」というコンセプトのもと、自分たちが信頼出来る政治家を創ることを目的にしたNPO「ステイツマン」を立ち上げる。約5年間の活動の中で選対事務局長として、衆議院議員、都議会議員など総計4人の議員を2000人の市民ボランティアと共に当選に導く。また、98年には、日本初の議員インターンシップを行い、約60人の大学生を議員の元に派遣した。
AIESECでのグローバル規模のインターンシップ活動、議員インターンシップ等の地域活動に奮闘していた塾生時代。これらの活動から培った、「人の個々バラバラなモチベーションを組織の成果へと結びつけるノウハウなどは、今に通じる所が大きい」。エネルギッシュで輝かしい姿で印象的な佐野氏。今後の活躍に期待したい。

(御園生成一)

佐野哲史氏 慶應義塾大学法学部政治学科卒業。03年、人材育成事業と創業支援コンサルティングを主業務とした「株式会社カスケード」の創設に参加し、副社長兼営業部長として営業部立ち上げを行う。04年「株式会社祭」創立。地域向け・市民事業立ち上げ支援事業と、企業向け・組織コンサルティング事業とを展開中。