《早慶戦特集2018》早稲田はジャイアンツのような存在 阪神タイガース・伊藤隼太選手

早慶戦特集2018

「あれは2010年の……11月3日ですね」

慶大と早大が最後に優勝決定戦で直接対決した日だ。日付がすらすらと口をついて出る。

その年の早慶戦、神宮球場は異様な雰囲気に包まれていた。早大に優勝「マジック1」が点灯し、慶大にも優勝の可能性が残っていたからだけではない。斎藤佑樹、福井優也、大石達也という早大の3投手がドラフト1位でプロ入りを決めており、六大学リーグ最後のマウンドに立とうとしていた。

迎え撃つ慶大の4番に座っていたのが、現在阪神タイガースでプレーする伊藤隼太選手だった。3年生の秋のことだ。伊藤選手にとって、3投手は1学年上に当たる。「斎藤さんが卒業するまでの3年間、早慶戦はいつも超満員だった」と回顧する。

早大は勢いづいていた。しかし、慶大にも前季王者の意地があった。1回戦で慶大の竹内大助投手が早大の先発・斎藤投手との投手戦に勝利。続く2回戦では伊藤選手の先制打を皮切りに7点を挙げ、ついに早大から勝ち点をもぎ取った。優勝の行方は、実に50年ぶりの早慶優勝決定戦に委ねられた。

伊藤選手は、前年秋の早慶戦を思い出していた。早大に同じく2連勝し、優勝を阻止したシーズンだ。「早稲田は自分にとっていわばジャイアンツのような存在。1勝は奪えても、いつもあと一歩勝ち点に届かなかった」。だからこそ、2年生にして早大から初めて勝ち点を奪った試合は「本当に嬉しかった」と鮮明に記憶している。

早大に特別な思いを抱いていたのには、もう一つ理由がある。当時、よく比較される相手として早大の土生翔平選手(現広島)がいた。早慶で下級生の頃から中軸を打つ、左打ちの外野手。共通項が多く、何かと引き合いに出されることが多かった。

伊藤選手は慶大在学時、土生選手について次のように語っている。

〈ピッチャーには土生には打たれるなと言っている。個人的に意識はしたくないけど、結果を見てしまうのが本音〉(塾生新聞2011年5月号

「気になるといえば気になる存在でした。今?さすがにもう意識はしないですよ」と笑う。

そして早慶優勝決定戦。スタメンには早大の1番・中堅で土生選手、慶大の4番・右翼で伊藤選手の名前があった。

慶大の前に立ちはだかったのは、やはり斎藤投手だった。8回途中までノーヒットノーランを続け、打線を手玉に取る。

「このままでは終われないと思った」と伊藤選手。この回2点適時打を放ち、7点ビハインドから一時2点差まで詰め寄った。

しかし、なおも同点のランナーを置いた場面であと一本が出ず、5–10でゲームセット。早大ナインがマウンドに駆け寄る様子を見た時、胸の中を支配したのは意外な感情だった。

「4年生ともう野球ができないという悔しさはありました。ただこの試合、ひとヤマ作ったというか、やりきったという清々しさが上回った」

キャプテンとしてチームを牽引した翌年、優勝が懸かった春の早慶戦で早大を下し、雪辱を果たした。「僕らの年は甲子園経験者が一人もいなかった。個人プレーではなく、『チーム力』で優勝できるんだということを証明できた」。今季の慶大ナインと同じ言葉を口にする。

大学4年間で、2度早大の目の前で優勝を決め、2度早大に胴上げを見せつけられた。卒業から6年が経った今も、脳裏の映像が薄れることはない。「優勝が懸かっていてもいなくても、早慶戦だけは別格。塾生でいる間に、代々続く両校のプライドのぶつかり合いを一度は見て頂きたいです」。早大への勝利が優勝以上の意味を持つことを、身をもって知る一人だ。

(広瀬航太郎)

伊藤隼太(いとう・はやた)

1989年5月8日生まれ、29歳。愛知の強豪・中京大中京高を経て、慶大環境情報学部に進学。2年生秋には4番でレギュラーに定着し、2年連続の六大学リーグ優勝に貢献する。ベストナイン3度受賞。2011年、阪神タイガースにドラフト1位で入団。昨年は自己最多となる73試合に出場し、リーグトップの代打安打数17を記録するなど、勝負強さを見せつけた。


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