我々は都会の大学生だ。数分間隔で電車が走り、コンビニがあふれる街で暮らしている。そのような便利な生活を手放すことなんて、もはやできない。だが本当に、都会だけが素晴らしい場所なのだろうか? 連載「列島再発見!」では、都会に暮らす慶大生の視点で、各地を訪れてその魅力を伝えていきたい。

――昨年2月号でそう宣言してから1年がたった。北は青森、南は沖縄の宮古島まで、9つの地を訪ねた都会暮らしの記者たちは、そこで何を得て、何を感じたのだろうか。

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「暮らしていくには公共交通機関が欠かせない」。取材を終えて、全記者が共通してあげた結論だ。以前は車社会に暮らしていた人でも、一度電車に慣れてしまうと感覚が戻らなくなるのだろうか。通勤ラッシュや定期的な列車遅延など、都心部ならではのトラブルに不満を漏らしていても、いざ電車のない環境に行ってみると便利さを享受していることに気づかされる。都会へのこだわりは人それぞれだが、各自が求める利便性があることが住みたい街の条件になっているようだ。

都会でしか暮らしたことのない記者が、地方の魅力として声をそろえたのが「人の温かさ」だ。縁もゆかりもない学生取材に対して温かくもてなしてくれ、ときには町で出会っただけの人でもその地域のことを教えてくれる。確かに都会では想像がつかないが、都会にいるときは知らない人に声をかけるのをためらってしまう人でも、田舎に行けばなんとなく声をかけてもいい気がするのはなぜだろうか。「都会はコミュニケーションが希薄で、頼れる人が少ない」といった記者がいたが、コミュニケーションを拒んでいるのは、我々ひとりひとりなのかもしれない。

今回の取材の多くは泊まりがけで行われた。東京を離れ、取材先で過ごした記者たちは「インターネットではわからないことがある」と痛感したという。

2月号 高千穂の夜神楽(宮崎県)

取材にあたり、それぞれインターネットで予習をしていったとしても、実際にその土地に根付いた食事をとり、その土地の時間軸に身を置いて初めて見えてくるものは多い。いくらスマホと向き合っても、そこで暮らす人の魅力や郷土料理の味はわからない。温かい一方で保守的かつ排他的な空気が流れていることや、そんな空気との相性だってわからない。「その土地の魅力は、観光名所の有無ではない。色々な場所に行ってみてほしい」。今回の連載で伝えたかったのは、そんな「人が普通に暮らす場所」としての地方の「今」だ。

大学時代は東京圏にしばられているとして、その後の人生をどこで生きていこうか。就職をするにしても、自分でビジネスを興すとしても、これから先しばらくは「仕事があるところ」で暮らすことになる。今は都会で暮らしていても、近い将来どこで暮らすかはわからない。都会でしか暮らしたことのない人、都会信仰のもと暮らしてきた人にとって、今回の連載が地方を知る機会になっていれば幸いだ。

そして仕事をリタイアし、本当に自分の意思で住む場所が選べるようになったとき、どのような町に魅力を感じるだろう。利便性か、流行か、はたまた人とのつながりか。地図で見るとちっぽけな島国だが、日本は狭くて広かった。
(小宮山裕子)

*これまでの連載記事(第1回~第9回)は、連載「列島再発見!」のページからお読みいただけます。