慶應塾生新聞会 三田オフィス
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【いま、平成に生きる⑩】最終回 時代を体現する若者 我々はどう生きるか

年が明け、平成も遂に30年目を迎えた。今、我々が生きる平成は、どのような時代だっただろうか。

学生は、いわばその時代の世相を全身に映すカメレオンだ。取り巻く環境に順応すべく様々に様子を変えてきた。「イメージでいえば、カラーの世界からモノクロの世界になった」。慶大で「現代日本人のライフスタイル」についての授業を持つ非常勤講師の本庄美佳氏は現代の若者をそう表現する。入学式だろうと面接だろうと、好きな色の服を着ていた昭和。それが今では男女とも真っ黒のリクルートスーツを纏(まと)っている。

平成へと元号が切り替わって数年、バブルが崩壊した。全てが右肩上がりだった時代が突然終わったのだ。だが、人々は弾け飛んだ泡への幻想を捨てきれずにいた。もう一度景気回復するかもしれない、こんなはずじゃない。そんな思いから逃れられなかった。

では、我々はどうだろうか。何にも期待していないのではないか。今は昔より大変だと大人は言う。だが、今の学生はその大変な時代しか知らない。生まれてこの方、それを当たり前にして生きてきた。それに対して、別段大きな不満も抱いていない。物が溢れる時代だが、物欲もあまりない。

今は、「失敗するとリカバリーの効きにくい時代」でもあると本庄氏は言う。そのため、準備をする。最近では「就活」「婚活」「保活」など、就職のため、結婚のため、保育園に子供を預けるため、など一つのゴールまでの準備活動も社会現象化している。失敗しないように石橋を叩きながら、逆算して生きているのだ。

昔はいい意味で軽はずみな行動をとることができた。若いうちは経験も情報もないため、右か左か、どちらの道が失敗に繋がっているのか進んでみないと分からなかった。しかし、95年のインターネット元年を経て、高度情報社会になった今は、情報がある分心配も増えた。ロールモデルを探し、その人を真似て生きることが失敗のない人生の近道だと考えるようになったのだ。

収入のいい大企業に入るため、いい大学を出る。いい大学に入るため、小学生のころから塾に通い私立の中学に行く人も増えた。慶大で教鞭をとって20年以上になる本庄氏だが、最近の学生は勉強慣れしていると感じるそうだ。

しかし、中学から私立に入り、いい大学に行くというのは簡単なことではない。莫大な教育費が必要となる。大学の授業料は年々高騰。私大に関しては、40年で約2・5倍になっている。教育格差が教育格差を生んでいるのが現状だ。

こんなはずじゃない、と大人が思う状況を当たり前にしている我々が大人になったとき、世界はどうなるのだろうか。

東日本大震災を経験し、今ある生活が永遠ではないことを、身をもって知った若者は助け合える社会をこれから作っていくのではないかと本庄氏は話す。

自分ひとりが成功することを望まない。なぜなら、その繁栄が永遠ではないから。自分が窮地に陥ったときに助けてもらえるような社会が好まれ、全体的に底上げを図った方が豊かであるという価値観が広く共有されるだろう。「持っている人がより有利になる仕組みではなく、自分や、自分の子供、孫がいざ困ったときに助けてあげられるように未来に信託する仕組みを作ってくれるのではないか」と本庄氏は言う。

先の見えない未来に期待するのではなく、信じるために今何が出来るのか。それを考え、備える社会。それが今を生きる私たちが築く未来なのかもしれない。
(山本理恵子)

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1年間、10回の連載を通して、科学技術、教育、出版など、さまざまな分野から我々が今生きる時代「平成」について考えてきた。時代が移り変わる中で、消えていくものもあれば新しく生まれてくるものもある。姿を変えずに役割を変えていくものもある。そのような変わりゆく時代にどう生きるかが、我々に問われることだろう。

時代は、その時代に生きる人々が作っていく。我々は次の時代をどのように作っていくのだろう。楽しみだ。