今までにない新しいものを創造・提案し、社会を変革させていくのは、まさしく至難の業である。

現在、株式会社リクルートマーケティングパートナーズの代表取締役である山口文洋氏は、月々9‌8‌0円のオンライン予備校「スタディサプリ」の企画・開発を主導し、有名な教育コンテンツに成長させた。果たして彼は、どのようにしてイノベーションを実現させたのだろうか。

慶大商学部に入学した山口氏は、勉学に励む代わりに様々なイベントを企画・実施することに力を注いだという。「色々な人を巻き込むために、相手が何に興味を持っているかを考えながら行動しました。その中で、どうすれば人を動かせるかを身につけましたね」。一方、通っていた資格対策の予備校で、たとえ生授業でなかったとしても実力講師による授業を受けた方が、理解が深まることを実感したという。これが「スタディサプリ」誕生の原体験だったと彼は話す。

大学卒業後、数年を経てリクルートに就職した山口氏は、2‌0‌1‌0年頃にカリスマ講師がオンラインで授業をするサービスを考案し、企画を決意する。「スマートフォンが登場してきたことで、オンライン教育は市民権を得るはずだ、と確信していました」

授業を担当する講師は、当時すでにカリスマ講師として名を馳せていた関正生先生をはじめ、多くの実力講師を説得、事業の立ち上げに参加してもらった。「この時、相手の興味をつくことで自分の気持ちを伝えるという、学生時代の経験が生きたと思います」と山口氏は語る。

社内の新規事業コンペ「NewRING」でグランプリを獲得し、2‌0‌1‌1年10月に「受験サプリ」としてサービスが開始したが、最初は鳴かず飛ばずであったという。「初期は月々5‌0‌0‌0円としてましたが、オンラインサービスとして考えるとかなり高い。そのため月々9‌8‌0円と思い切って価格を設定し直しました」。その後、受験サプリは会員数を急速に増やしていく。

2‌0‌1‌6年に「スタディサプ‌リ」に名称変更し年齢層を広げ、現在では23万人もの有料会員数を持つサービスに成長した。日本における地域的・経済的な教育格差の解消に一石を投じている。

イノベーションの先駆者として山口氏は、「自分は自分」という軸を持つことが大切だと話す。「『今後のため』になんとなく行動するような日々を過ごすよりも、たとえ自分では無理に思えても、自分がやりたいことをやり続けるような日々の方が価値はあると思います。そして友人関係や恋愛など、他人との交流を大切にしてほしい。大学時代の充実した経験は、あなたが一人前の大人になった時に存分に生きてくるものです」

「スタディサプリ」を生み出した山口氏は、自分自身を、そして人と人とのつながりを、大切にする人であった。
(松岡秀俊)