慶應塾生新聞会 三田オフィス
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【いま、平成に生きる⑧】音楽とテレビ番組 大ヒットは再び生まれるのか

平成初期、音楽はミリオンセラー、テレビ番組は高視聴率を獲得していた。しかし現在では、なかなか「大ヒット」が生まれない状況に陥っている。

音楽業界はなぜ低迷したのか

バブル崩壊により、日本が不景気だった90年代、音楽業界は「今思えばバブルだった」と音楽ジャーナリストの柴那典氏は思い返す。10年間で約1‌4‌0作のシングルCDがミリオンセラーを記録した。98年には、日本の音楽市場売上は最高益を記録した。

90年代、なぜCDが大量に売れたのか。それは、CDが音楽媒体としての性質を持っていたことに加え、コミュニケーションツールとして欠かせない存在だったからだ。当時、テレビドラマやCMのタイアップとして、音楽を売り出す手法が確立されていた。こうした音楽は学校や職場での共通の話題として今よりも重宝された。都市部のカラオケボックスが急速に普及したのもこの時期だった。SNSがない時代、流行に追いつくためには、CDを買う必要があった。「CDは今でいうインスタグラムのような存在でもあった」

しかし90年代末、インターネットが普及し、配信サービスが始まったことで、世界的にCDの売上は落ち込む。19世紀末に蓄音機が発明されて以来約1‌0‌0年間続いた複製文化の終焉だ。
00年代からしばらくは、CDバブルを引きずった結果、新しいテクノロジーに対してビジネスモデルが追いついていなかった。それを打開したのは、ストリーミングサービスの普及だ。IFPAによると、ライブを除く全世界の音楽業界の売上は、15年以降回復している。

しかし、日本にはその波が訪れていない。CDで音楽を聴く人が、アメリカでは16%であるのに対し、日本では約8割だ。ストリーミングサービスが普及していないことが分かる。主要国でみると、日本はガラパゴス化している状況だ。
ストリーミングサービスの普及により、CDなどのパッケージは消滅していくのか。「CDはメモリアルアイテムとして、ニッチな物として残り続ける」と柴氏は語る。

高視聴率番組はもう作れないのか

平成のテレビ番組を振り返って「全てのジャンルにおいてバラエティ化が進んだ」と社会学者の太田省一氏は語る。例えば、「HEY! HEY! HEY! MUSIC CHAMP」は歌番組において、「TRICK」はドラマにおいてのバラエティ化のそれぞれ先駆けだ。近年では、報道番組もバラエティ化が進んでいる。

この動きは、80年代のフジテレビがバラエティ番組において大成功を収めたことに起因している。「楽しくなければテレビじゃ無い」という方針を打ち出して始まった「ひょうきん族」や「FNS27時間テレビ」は、高視聴率を取っただけではなく、「視聴者がツッコミしながらテレビを観る習慣が付いた」と太田氏は分析する。

しかし00年代に突入し、テレビの黄金時代に陰りが見えてくる。これは、音楽業界と同じくインターネットの普及も起因しているが、一番大きな理由はバブル崩壊による格差社会の広がりだ。

高度経済成長期以降のテレビは「1億総コミュニティ」だったと太田氏は表現する。バブル崩壊による不景気は、「みんなで盛り上がる」ということに対する違和感を生んだ。次第に「ツッコミ」は批判へと変わり、SNSの普及はその動きを激化させた。「録画機器が普及する現代、視聴率を気にするビジネスモデルは時代遅れ。一定の苦情で自主規制してしまうことは、テレビにとって不健全」と苦言を呈す。

テレビ不振の今、動画配信サービスが普及し始めているが、今後どうなるか。たしかにインターネットは、場所を選ばずに観られるという優位性はある。しかし、その内容は昔のテレビ番組の真似事に近い。インターネットが普及してもなお、娯楽コンテンツを作成するテレビ局は今後もその役割を担っていくという。

今後どうなるか

20世紀末のインターネットの普及は趣味を細分化させ、よりパーソナルなコンテンツがヒットするようになった。しかし、「2‌0‌2‌0年代は大きく変わるかもしれない」と柴氏は予測する。今年に入って、AIを搭載したホームスピーカーが続々と発売されている。「ホームスピーカーが普及すれば、パーソナルではなく『ファミリー』にターゲットを据えた曲がヒットするのではないか」

テレビ番組においても、近年スマートテレビが発売され、動画配信サービスを据え置きのテレビでも視聴できるようになった。テレビ番組や動画配信サービスも、「ファミリー」を意識するようになるのではないか。
「『お茶の間』という価値観が復権して『お茶の間2.0』という考えが浸透するかもしれない」

趣味の細分化により、ヒットが生まれにくい昨今だが、今後家族全体が楽しめるコンテンツが流行するようになれば、大ヒットはまた生まれるかもしれない。
(山本啓太)