慶應塾生新聞会 三田オフィス
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【ART COLUMN】コーネリアス「FANTASMA」(1997)

世界的に活躍するアーティストと聞いて、誰を思い浮かべるだろうか。コーネリアスこと小山田圭吾もその1人であろう。彼の作る楽曲は海外でもリリースされ、2‌0‌0‌8年にはグラミー賞にノミネートした。

そんなコーネリアスが、海外から人気を得るきっかけとなった作品が、今から20年前にリリースした『FANTASMA』だ。

本作の特筆すべき点は、個々の曲が繋がっていることだろう。アルバム全体で1つの非日常的な世界を表現しているのだ。

冒頭「MIC CHECK」は、リスナーを本作の世界へ誘う曲といえるだろう。本曲にはバイノーラル録音という特殊技術が用いられており、イヤホンを使用することで、まるでその場にいるかのような臨場感溢れる音として耳に届くのだ。曲の中盤では物語の始まりを予感させるメロディに、抑揚の無いマイクチェックの声がラップのように心地よいビートを刻み始める。最後に「star…t」の歌声で物語の始まりが告げられるのだ。

本作では、様々な楽曲が収録されている。8曲目の「CHAPTER 8 ~Seashore And Horizon~」は、スローテンポなポップスとサイケポップという全く異なった二つの音楽を、カセットテープを切り替える動作によって行き来するような楽曲である。遊び心に富んだ曲の構成かつ、メロディアスで美しいコーラスによって、とても心地の良い楽曲となっている。

本作品の性質上、幻想的な曲が多くなってはいるものの、激しいロックもいくつか収録されている。6曲目の「COUNT FIVE OR SIX」は、英語のカウントダウンによって全編にわたり拍が刻まれる。ハードロックなサウンドは一貫しているが、リズムは六拍子・四拍子・五拍子と変化を繰り返す。思わず足踏みしてしまう1曲だ。

冒頭の曲に対応するように、最後の2曲は本作の世界から別れを告げるような内容となっている。「THANK YOU FOR THE MUSIC」は、西洋のお祭りのような賑やかな声をバックにカントリー調の軽快なサウンド、そして「Bye-bye」を歌詞で何度も繰り返す。曲の終盤に差し掛かると、これまでの全ての楽曲をダイジェストで振り返ることで、楽曲が走馬燈のように横切る。ワープ音とともに、美しいアカペラの楽曲「FANTASMA」で本作は締めくくる。アカペラが終わった直後に録音された溜め息は、空想の世界から現実に引き戻された虚無感を表しているのだろう。

(提供)

本作を一言で表せば、「音楽のテーマパーク」だろう。それは、表題通りファンタジーな世界を表現していただけではなく、様々なアトラクション、すなわち幅広いジャンルの音楽を網羅しているからだ。

その大きな要因として、当時の音楽事情が大きく影響している。1‌9‌9‌0年代、過去の洋楽をルーツに持った楽曲が流行した。それらの楽曲は当初、外資系のレコード店や、中古レコード店などが集中していた渋谷を中心に流行していたことから「渋谷系」と称され、コーネリアスもその代表格だった。

当時「世界で一番レコードが集まる街」とも称された渋谷が創り上げたと言っても過言では無い本作品は「渋谷系の最高傑作」との呼び声も高い。

あなたも、この壮大なテーマパークに一歩足を踏み入れてみてはいかがだろうか。
(山本啓太)