喊声 2017年8月号 トンとかかとをおろしたら

人はつい背伸びをする生きものだ。周りにいる他人と自分をそれとなく比較して、あるべき背丈を考える。そして、ときに背伸びして自分を大きく見せようとする。

背伸びのひとつに「知ったかぶり」がある。人は知らないことに直面したとき、ついつい知っている振りをしてやり過ごしてしまう。「知らないことは恥ずかしい」と意地ともプライドともとれる感覚を手に、トントンと相槌を打っていく。そして何事もないように話は進み、いずれ自分が知らないことは流れていく。一時の背伸びはこれほどまでに簡単だ。

私たちはいつから知らないことを知らないと言えなくなったのだろう。「どうして電車はあんなに速いの、ねぇどうして」と繰り返す子どもに、困ったなと母親が笑い「それはね…」と話しだす。子どもは知らないことに対して貪欲だ。それは知ることこそが成長に繋がると、本能的に分かっているからかもしれない。だからこそ、その小さな手で発見を掴もうとする。

たくさんの発見を掴んできた私たちの手は、いつの間にか大きくなった。しかし、私たちは時折周りを見渡して、自らその機会を手放そうとする。素直に知らないと言えば得られたであろう知識を、自分の小さな見栄のために逃してしまう。

けれども、それではいつまで経ってもつま先立ちの背伸びのままだ。それは成長ではない。

いつまでもつま先立ちでいられるほど、私たちは強くない。トン、とかかとを下ろしてみれば、もっと自分らしく動けるかもしれない。大きくなったこの手はきっと未知なる世界を掴み、私たちを真に成長させてくれる。
(青砥舞)


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