「ウォール・ストリート・ジャーナル」「ワシントン・ポスト」など主要紙で称賛され、世界30か国以上で出版された世界的ベストセラーをご存じだろうか。マーク・ザッカーバーグ氏が「今年の1冊」に選び、ビル・ゲイツ氏や堀江貴文氏など国内外に愛読者がいる。その本の名は「サピエンス全史―文明の構造と人類の幸福―」(ユヴァル・ノア・ハラリ著、柴田裕之訳)だ。
 
本書の問題提起はこうだ。地上にホモ・サピエンスより遥かに賢く体力がある人類種は、ネアンデルタール人を筆頭に数多くいた。ではなぜとるに足りないホモ・サピエンスが地上の支配者になれたのか、というものだ。
作者はその理由を一言「虚構を作れたからだ」と言い切る。その根拠に認知革命を挙げる。これは7万年前から3‌万年前にかけて見られた、新しい思考と意思疎通の方法だ。ここで重要なのは、虚構、すなわち架空の事物について語る能力が芽生えたことだ。この虚構により私たちは単に物事を想像するだけではなく、集団で想像が可能となった。天地創造の物語や国民主義の神話、平等や人権の思想などの共通神話を私たちは紡ぎだすことができる。虚構が協力を可能にし、ホモ・サピエンスは他の人類種を絶滅に追い込み、地上で最も凶悪な存在となった。

認知革命と同等の衝撃を与えたのが農業革命だ。農業革命は繁栄と悲劇をもたらした。動植物を家畜化・栽培化することで食糧生産量が大幅に向上したとされている。しかし、自然環境に左右される繊細な小麦を育てる農耕定住民は、狩猟採集民より苦労したにもかかわらず、生産物の栄養価は低く、飢えや病気のリスクが高かったという。そう、小麦がホモ・サピエンスを家畜化していた。農業革命は史上最大の詐欺だったのだ。

その後歴史は統一へ向かう。その原動力が貨幣、帝国そして宗教という普遍的秩序を兼ねる虚構だ。

3つ目の革命が科学革命だ。自らの無知を認め知識を追求する。経済は劇的に発展し、物質的に豊かな社会が到来した。
 
本書では最後にどのような世界へ向かうか予想する。ホモ・サピエンスは生物学的に定められた限界を突破し超ホモ・サピエンスの時代へと向かうという。生物工学、サイボーグ工学、非有機的生命工学の3つの道へと進む。人間の意識とアイデンティティが抜本的に変わるシンギュラリティの世界の到来だ。終わりに「私たちが自分の欲望を操作できるようになる日は近いかもしれないので、ひょっとすると、私たちが直面している真の疑問は、『私たちは何になりたいのか?』ではなく、『私たちは何を望みたいのか?』かもしれない」と結んでいる。
 
今まで信じてきた固定観念や常識を根底から覆す、目から鱗の本書、ぜひお手にとってはいかがだろうか。
(好村周太郎)